ジンには多種多様なスタイルがありますが、その中でもジンラバーの間でも人気が高い「ネイビー・ストレングス・ジン(Navy Strength Gin)」というジンの種類が存在します。
ジン初心者だった頃の筆者は、「ネイビー=海軍」「ストレングス=強さ」という字面だけ見て、どんなジンなのか想像がつきませんでした。ストレングスなので度数が強いのは何となくわかりますが、ネイビー(海軍)がどの様な由来から来ているのか分かりませんでした。
ざっくり言うと、アルコール度数が高い57度-58度の間くらいのジンということになります。しかし、「なぜ高いアルコール度数のジンと海軍がつながるんだ?」という疑問が浮かんでくると思われますので、今回の記事では、その名前の由来や特性などについて深掘りしてご説明していきます。
ネイビー・ストレングス・ジン その歴史と「プルーフ」という基準
プルーフ=かつてのアルコール度数の単位
ネイビー・ストレングス・ジンが語られる際に登場する言葉が「プルーフ」という単語です。イギリスのUKプルーフと、アメリカのUSプルーフという2つの基準がありますが、今回の記事ではUKプルーフに焦点を当ててご説明していきます。
「プルーフ=証明」と言う意味ですが、何に対する証明なのでしょうか?それは、かつての英国政府が蒸留酒の度数を証明するために作った基準と言われています。1500年代、英国政府はアルコール度数の高い蒸留酒に高額な税金を課する目的で、プルーフという基準を作りました。
当時、どの様な方法で高アルコール度数かどうかということが判別されていたかというと、着火して火が点けばアルコール度数が高いお酒であるという “burn or not burn test(燃えるか燃えないか)”と、「火薬」にお酒を浸して、その火薬が着火して青い炎が灯るかどうかで判別する “ガンパウダー・メソッド” というテストが採られていました。
プルーフの正確な測定方法の発達
もちろんその様な方法で一定の測定値が測れる訳でもなく、1700年代に科学的に正確な測定方法が採用され始め、その後の1816年に正式な測定方法として制定されました。含有されているエチルアルコールの体積濃度からプルーフを規定する方法です。
100プルーフ=「蒸留水の12/13の密度の蒸留酒の体積密度を100とするよう定められている」という一見聞いただけではどんな意味か分からない科学的に難しい内容ですね。その詳細は置いておいて、シンプルに一般に流通しているアルコール度数(Alcohol by Volume = ABV)に直すと、「100プルーフ=57.15度」という数値になると言うことだけ理解しておいてください。
その数値を超えたものが「オーバープルーフ」。数値より下のものが「アンダープルーフ」と言われています。
プルーフでの表示はイギリスにおいて近代まで使用され、カナダやEUも同じ基準を採用したり、アメリカのUSプルーフが独自に発達したりもして、かつての時代の正式な単位でした。しかし、1980年のイギリスにおいて、ABVを使用してのアルコール度数表示が正式に制定され、それから国際的にもABV表示が一般基準となり、現在ではあまり見かけない単位となりました。
海軍の備蓄品
ネイビー・ストレングス・ジンに話を戻しますが「Navy=海軍」の意味ですので、英国海軍がこのジンの名称の由来であるとされています。
16世紀頃から、英国海軍は船乗りの為の備蓄品としてお酒を船倉に搭載して航海をしていました。その元祖はビールやワインとされていましたが、次第にラムやジンに置き換わっていったと言われています。
プルーフのご説明で述べた通り、オーバープルーフのお酒は火薬に染み込んでも湿気らず着火できます。樽に詰めたジンと弾薬用の火薬が隣り合わせ船倉に積まれていたので、ジンが樽からしみ出して火薬が使い物にならなくなることを避けるために、海軍の常備酒はオーバープルーフのものになったということですね。
プリマスジンの蒸溜所が立役者
歴史上で始めて「ネイビー・ジン」と呼ばれる海軍のための高アルコール度数のジンを製造したのは、英国デヴォン州に設立された「Blackfriars Distillery」 であると言われています。後に蒸溜所の名称が変わり「プリマス蒸溜所」となりました。現在でもとても有名な銘柄「プリマスジン」を製造する蒸溜所と言えばピンとくる方もいますよね。
プリマスと言う街は英国でも屈指の軍港だったので、蒸溜所と海軍の間には強い繋がりがありました。1850年代にプリマス蒸溜所は、海軍のために100プルーフのジンを製造し始め、1855年までには、1年に1000樽もの大量のジンを提供していたと言われています。
現在では海軍がお酒を常備するという慣習は廃止されましたが、かつての時代の名残りで、57度以上のジンが「ネイビー・ジン」や「ネイビー・ストレングス・ジン」と名付けられることが非常に多く、ジンの1つのジャンルとして存在します。
ネイビー・ストレングス・ジンの特徴
アルコール度数
正確に言えば57度-58度の間のアルコール度数を持つジンと言うことになりますが、現代においては、通常の40度台のジンよりもアルコール度数の高いジンに名付けられています。例えば、54度の「季の美 ネイビーストレングスジン」や、58.8度の「フォーピラーズ・ネイビーストレングスジン」など、若干低めの度数から58度を超えて60数度までのものまであります。
製法
一般的なジンは、ベーススピリッツとボタニカルの蒸留後のアルコール度数は60度-70度の状態に精製され、その後の加水を経て、一般流通しているような40度-50度の度数になるように希釈されます。ネイビー・ストレングス・ジンを製造する場合は、加水の段階で加える水を少な目にして、度数を高めに設定されています。
味
英語でネイビー・ストレングス・ジンが紹介される時に必ずと言っていいほど使われる形容詞が「Intense=強烈」という単語です。
度数が高いこともあり、感じられるアルコール度数は高くなります。そして度数のみならずボタニカルから抽出される風味に関しても同じように言うことができます。少量の加水ということは、ボタニカルの風味も希釈されずに強く残るということになります。
アルコール度数が高いので、スパイスやシトラスなどの風味が強いボタニカルが多く使用され、逆に、土っぽい温かみのあるものや花びら由来のフローラルなものなど、繊細な風味のボタニカルはどうしても陰に隠れてしまいその風味は目立たなくなってきます。
呼び方もそれぞれ? 編集部が選ぶネイビー・ストレングス・ジン3選
・ネイビー・ストレングス・ジン
『プリマス・ジン・ネイビー・ストレングス』アルコール度数:57度
前項でご紹介した「プリマスジン」。約200年もの間、英国海軍に提供されていたという歴史のあるジンです。
ジュニパーベリー、オレンジピール、レモンピール、カルダモン、コリアンダー、アンジェリカ、オリスと言った、英国のドライジンに使われている王道のボタニカルがバランスよくブレンドされ、パンチのある味ながらも気品に満ち溢れた逸品です。
・オーバー・プルーフ・ジン
『シップスミス V.J.O.P.』アルコール度数:57度
オーバー・プルーフ・ジンと名付けられているジンも存在します。
ロンドンにおいて約200年ぶりに小規模蒸留所においてのジン製造のライセンス取得を果たし、現在のクラフトジンブームの火付け役となった「シップスミス蒸溜所」。そこで作られる「シップスミス・ロンドン・ドライ・ジン」はジュニパーベリーの力強い風味を感じられるジンの代表的な存在です。
そのオーバープルーフのバージョンである「V.J.O.P.」。「Very Junipery Over Proof」の略称であり、アルコール度数の高さも手伝い、ジュニパーベリーや他のボタニカルの風味を更に強く感じさせます。ジンラバー、とりわけジュニパーフリークにとっては避けて通れない一本ですね。
・ガンパウダー・ジン
火薬が湿気ないというストーリーから「ガンパウダー・ジン」と名付けられているジンも存在します。
世界中で飲まれ続けている、スコットランド発のクラフトビール最大手「BREWDOG」。ビールを中心に製造している一方で蒸留酒も手掛けており、どちらも高い人気を誇っています。
そのBREWDOGが作る「ローンウルフ・ジン」は、レモングラスやコブミカンの葉などのエキゾチックなボタニカルを使用しつつ、スパイシーに仕上げられており、刺激的なジンとして世界中で愛されています。アルコール度数が高いバージョンの「ローンウルフ・ガンパウダー・ジン」には、さらに花椒(ホアジャオ)などのスパイスが加えられよりより刺激の強い味に仕上げられています。
最後に
今回の記事では、ネイビー・ストレングス・ジンに焦点を当てて解説してきました。アルコール度数が高く酔いやすいということはありますが、アルコールとボタニカルを味わいたい方にとってはうってつけのジンです。
その強い風味をダイレクトに味わうためにストレートで飲むのも良し。いつもより刺激的なジントニックを楽しむのも良し。
いつもと違うジンを味わいたい時の為に常備しておくのもオススメです。
出典
https://www.foodnetwork.com/fn-dish/news/2017/07/why-alcohol-content-is-measured-in-proof