4大ジンの一角と言われる『ボンベイ・サファイア』。ロンドンドライジンの代表的な銘柄であり、日本でもクラフトジンブームが巻き起こる以前から人気の高い銘柄です。その青く透き通った美しいボトルに見覚えのある方も多いのではないでしょうか。
その代名詞とも言える製法「ヴェイパー・インフュージョン」。ラベルにも「Vapour Infused」と記載がありますが、これはなんのことなんだ?と思いますよね。
近年、「ヴェイパー法」とも呼ばれるこの製法は、ハイブリッド蒸留器の普及によりボンベイ・サファイア以外の銘柄でも多く採用される様になってきました。今回の記事では、そんな「ヴェイパー・インフュージョン」という製法についてご説明していきます。
「ヴェイパー=蒸気」「インフージョン=注入」
以前の記事で、「スティーピング(浸漬)」という製法についてご紹介しました。このヴェイパー・インフュージョンという製法は、スティーピングと並んで、アルコールにボタニカルを風味付けをする目的における主要な工程です。
ジンの蒸留時、ボタニカルを実際にアルコールに漬け込んで香味成分を抽出する方法がスティーピング。対してこのヴェイパー・インフュージョンは、蒸留器で熱せられた蒸気の通り道に「ボタニカル・バスケット」を設置し、その中にボタニカルを入れ、蒸気をくぐらせて風味を抽出する方法を指します。
ボタニカル・バスケットを使用するバスケット法
では、ボタニカルバスケットがどの様なものか。下記、ボンベイサファイアの製法に関するYou Tube動画を見ていただくと分かり易いので、気になる方は視聴していただけると幸いです。
蒸留器の上部に設置されたボタニカルバスケットの中で、一つ一つのボタニカルが個別の箱に入れられ、そこを蒸気が通過するときにボタニカルから風味が溶け出します。
なぜ蒸気を通過させる?
一見すると、スティーピングを採用して、そのままアルコールと一緒に熱する方がボタニカルの香味成分がより抽出されるように思いませんか。では、ヴェイパー・インフュージョンの狙いとはどの様なものなのでしょうか?
ネガティブな風味を抽出しない
ボタニカルを「熱しすぎない」ということが大きな利点となります。蒸留時にアルコールと一緒にボタニカルを熱する方法において、熱を加えすぎると「えぐみ」や「苦味」などといったネガティブな風味が溶け出してしまうことがあります。
対して、蒸気を通過させるだけであれば穏やかに加熱するということができ、ネガティブさが抽出されにくくなります。ボンベイ・サファイアが、ヴェイパー・インフュージョンで香味成分を抽出する狙いを「リッチでアロマティックな風味が得られる」と紹介していることからも、そのことがうかがえます。
繊細なボタニカルにはヴェイパー・インフュージョンが効果的
そのネガティブさを避けるという考えは、ボタニカルの種類によっても変わってきます。例えば乾燥していないフレッシュハーブや花びらなどは熱に弱く、そのフレッシュ感を抽出したい時にはヴェイパー・インフュージョンがとても効果的です。
例えば、カナダのロング・テーブル蒸留所が作る、キュウリがメインボタニカルの『キューカンバー・ジン』。キュウリ以外のボタニカルは全てアルコールと一緒に蒸留、キュウリのみボタニカル・バスケット内で風味の抽出がなされています。
ヴェイパーインフュージョンの蒸留器いろいろ
ヴェイパー・インフュージョンができる蒸留器にもさまざまな形のものがあるのでご紹介します。
カーターヘッド・スチル
19世紀の中ごろに発明された、ボタニカル・バスケット付きの蒸留器の元祖的存在。連続式蒸留器「カフェ・スチル(パテント・スチル)」の生みの親・Aeneas Coffeyの元で働いていたカーター兄弟によって、19世紀中ごろに作られました。
蒸留器の上部にパイプがついており、その先にボタニカル・バスケットが設置されていて、そこからさらにパイプによってコンデンサー(冷却器)につながっています。
現存するカーターヘッドスチルはとても少なくなっており、アイスランド産ウォッカの『REYKA』や、ジンに関しては『ボンベイ・サファイア』『ヘンドリックス・ジン』を製造している蒸留所に設置されています。その数は世界で6台と言われていますので、とても希少性の高い蒸留器ですね。
『ヘンドリックス・ジン』においては、カーターヘッドスチルのみならず、「ベネット社」製の1860年に製造された単式蒸留器も使用され、2台のによって蒸留されているとのことで、こだわりが本当に凄いです!
ハイブリッド・スチル
単式蒸留器と連続式蒸留器が一体になった形の蒸留器です。単式蒸留器内で熱せられた蒸気が連続式蒸留器を通過してさらにクリアな蒸留液を製造することが可能。さらにその先にボタニカルバスケットが設置されている形のものも多く存在します。
近年、ハイブリッド蒸留器の普及により、多くのジンがこのハイブリッド・スチルで製造されています。繊細な香味を抽出したいボタニカルだけをボタニカル・バスケットに入れて、スティーピング法とヴェイパー・インフュージョンを併用して製造されているジンも爆発的に増えているようです。
ベリー・チェンバー
ベリーはラズベリーなどのベリー系のボタニカルを指し、チェンバーは「部屋」という意味からその名が付けられています。ボタニカル・バスケットの一種ですが、丸い筒状のバスケットの中が棚状になっていて、そこにフレッシュなベリー系のボタニカルやフレッシュハーブなどを敷き詰めて、その風味を抽出するという形です。
ベリー系のボタニカルはとても繊細で、そのフレッシュさをジンに風味付けしたい場合にこのチェンバーが使用されます。『カルーン・ジン』を製造している、スコットランドのバルメナック蒸留所に設置がされています。
最後に
ジンは製法自体が限りなく自由で、作り手のイメージによって様々な製法が採用されています。ボタニカルのブレンドによってジン一本一本の個性が生まれますが、さらにヴェイパー・インフュージョンなど、ボタニカルの風味付けの方法を変えることによっても、味わいが全く違ってきます。
そんな作り手のこだわりに想いを馳せながら飲むのも、ジンを楽しめる一つの醍醐味ですね!
洋書 GIN THE MANUAL
洋書 GIN DICTIONARY
You Tube : 「Bombay Sapphire The Process of Vapor Infusion Videos IFC com m4v」
Hendrick’s Gin : A TALE OF TWO TYPES OF STILLS
Forbs : The Spirits Masters Announces The World’s Best Vodkas
(参考元)