京丹後「薬草薬樹ノ森」に佇む『京丹後舞輪源蒸留所』のご紹介

京都府北端の丹後半島。山間には、古来より豊かな自然が広がっています。冬は深い雪に守られ多種多様な植物が生息し、地元の人々の暮らしと健康を支えてきました。

その山の中、標高620メートルに位置する丹後天橋立大江山国定公園」の中に、2024年、「京丹後舞輪源蒸留所(KYOTANGO MAIRINGEN DISTILLERY)」が誕生しました。

蒸留所では、地元の山で採れる新鮮なボタニカルと、性質の異なる二種類の湧き水を用いて「フレッシュクラフトジン」と呼ばれるジンがつくられています。

今回、私たちジンラボジャパンは、実際に蒸留所を訪ね、蒸留家の真山(しんざん)さんに直接お話を伺ってきました。

京丹後という土地の魅力や、蒸留所のストーリー。そして、山と水の恵みを最大限に活かした、自然と調和したジンづくりについてご紹介していきます!

「京丹後」という土地と風土

京丹後市は、京都府の北端に位置する日本海に面した自然豊かな地域です。「海の京都」とも呼ばれ、山と海の距離が近い地形が特徴的です。豊かな山林と漁場に恵まれており、夏には涼しい海風が吹き、冬には深い雪に覆われる。そんな、四季の変化に富んだ環境が特徴的です。

また、京丹後は「健康長寿のまち」としても知られており、100歳以上の高齢者が全国平均の3倍にのぼり、しかも、元気に暮らしている方が多いことで有名です。

その背景には、海の幸や山の幸を活かした食文化、そして、薬草を取り入れてきた生活の知恵があるといわれています。実際に、地域の山林には300種以上の薬草や樹木が自生しており、人々は古くから自然と共存しながら暮らしてきました。

さらに、京丹後には「徐福伝説」も残されています。はるか昔、秦の始皇帝の命を受けた徐福は、不老不死の薬を探すために日本に渡り、様々な土地を訪れたと言われ、その内のひとつに、この丹後半島があったという言い伝えがあります。

こうした自然環境や伝承は地域の人々の暮らしに深く息づいていて、京丹後舞輪源蒸留所のジンづくりにも深く結びついています。

京丹後舞輪源蒸留所の名前の由来

標高683mの丹後天橋立大江山国定公園内にある、スイスの地名を冠した建物「ヴィラ・マイリンゲン」。かつては多くの人で賑わっていましたが、長らく閉鎖されていたこの建物に「再び命を吹き込みたい」という思いから改修が進められ、ついに2024年の春、蒸留所として生まれ変わりました。

蒸留所の名は、もとの建物の名前を受け継ぎ「舞輪源(まいりんげん)」と名付けられています。また、その漢字一つひとつには次のような意味が込められています。

舞:思うままに動く
輪:めぐらせる
源:みなもと

「京丹後の山奥で、地球や自然の流れと共生し、その魅力を蒸留・抽出することで、自然本来の豊かさや力強さを発信していく」

そんな想いが、この蒸留所の名には込められています。

自然に対する思いはロゴデザインにも込められています。

ジンの主役であるジュニパーベリーを中心に、深い山の緑が表現されており、蒸留所のテーマが美しく表現されています。

京丹後舞輪源蒸留所の建物に一歩足を踏み入れると、自然の息遣いを感じられるような、落ち着いていながらも洗練された空間が広がっています。

まず目を引くのは蒸留所併設の空間。木の温もりを生かしたインテリアでまとめられ、中央には樹齢300年程の巨木を切り出してつくられた、存在感あふれるテーブルが据えられています。

テラスに出れば、眼前に広がるのは圧巻の山の風景。夏には生命力に満ちあふれ、冬には雪に包まれた静寂な景色が眺められます。この日は曇りでしたが、晴れた日には雄大な日本海を眺めることもできます。

自然の大きな景色を眺めながら、ゆったりとした空気の中で飲むジンは、都会の煩わしさを忘れさせてくれる極上な体験となるでしょう。

ジンの製造スペースには、蒸留の主役である蒸留器が中央に据えられています。

他にも目を引くのが冷却水用の巨大な保管タンク。天然の水を汲み上げて循環させることによって蒸留液をゆっくりと冷却していきます。ここにも、蒸留という営みが自然と共存している姿勢が見て取れます。

蒸留家・真山さん

京丹後舞輪源蒸留所のジンづくりを一手に担うのが、蒸留責任者の真山(しんざん)さんです。

2000年に京都で生まれ、20代中盤という若さで蒸留家となりました。現在、ジャパニーズジンを手がける蒸留家の中でも一番の若手の部類と言えるのではないでしょうか。

実際にお会いしてお話を伺うと、穏やかな雰囲気の奥に、内に秘めた探求心を強く感じられます。蒸留家になる前は線香屋で香りの構成を学んでいて、その経験が今の仕事の「香り」と「自然」というテーマに大きく活かされています。

蒸留家となった現在は、ジンづくりの中核となるレシピの開発から、日々の作業であるボタニカルの採取と仕込み、蒸留作業まで、ジンづくりの全ての工程に携わっています。

その過程の全ての場面で、真山さんの香りに対する繊細な感性が活かされ、ボタニカルひとつひとつの個性が丁寧に引き出されています。

現在、蒸留所の周辺には民家もありませんが、より自然や蒸留という営みに寄り添いたいとの思いから、真山さんは愛犬とともに蒸留所の建屋へ移り住みました。静かな環境の中で、田んぼの作業や植林などに携わりながら、日々ジンに真摯に向き合う毎日を送っています。

丹後の風土を映し出すジン

現在、京丹後舞輪源蒸留所では2種類のクラフトジンが製造されています。真ん中が、京丹後舞輪源蒸留所のシグネイチャージンである「Mairingen Fresh Craft Gin (ORIGINAL)」。左が同製品の200mlミニボトルバージョン。

そして、右がプレミアムジンである「Mairingen Extra Fresh Craft Gin 2024 (PREMIUM)」です。

では、それぞれの個性をご紹介していきます。

Mairingen Fresh Craft Gin (ORIGINAL)

蒸留所のシグネイチャーモデル「Mairingen Fresh Craft Gin (ORIGINAL)」。

蒸留所周辺のボタニカル等14種類を組み合わせてつくられています。

その中の一部は、山で朝摘みした植物をその日のうちに蒸留することで、素材が持つ瑞々しい香りをそのまま閉じ込めています。山の中の蒸留所だからこそできる製法で、この「フレッシュさ」が舞輪源ジン最大の特徴です。

ジンの主軸となるボタニカルであるジュニパーベリーをふんだんに使用。その他にもジンに使用される伝統的なスパイスに加え、地元の山で採れるハーブや近隣の農家が育てる柑橘など、個性豊かなボタニカルが使われています。

その中でも象徴的なものをいくつかご紹介していきます。

石焙煎クマザサ

クマザサは山地に広く自生する植物で、独特の青々しい香りが特徴的です。舞輪源では特製の「縄文鍋」と熱した石を使って焙煎し、水分を急速に飛ばして焙煎します。この手法によって青さと香ばしさが重なり、ジン全体の風味のレイヤーが多層的になります。

真山さんは、この「縄文鍋」に強く惹かれ、鍋と調理法を生み出したレストランを訪れ、一定期間学びの期間を設けました。クマザサは焙煎すると非常に香ばしい香りが立ちのぼりますが、一度に扱える量はごくわずかで、ジンのボタニカルとして仕込むには大変手間のかかる工程です。

クロモジ

使用されるクロモジは蒸留所がある山で剪定されたものを使用しています。柑橘の様な爽やかさと上品な香りを持ち、甘みと清涼感をジンに与える存在です。蒸留当日に朝摘みした新鮮なクロモジを使うことで、まるで森林浴をしているかの様な風味がジン全体に与えられることとなります。

その葉を縄文鍋で焙煎したクロモジ茶を特別に淹れていただきました。焙煎によって香ばしさを感じられつつ、クロモジ本来の香りの高さがしっかりと残り、リラックスした気分になれる清々しさがあります。

柑橘

柑橘類もボタニカルとして、地元の農家で農薬を使わずに栽培されるレモンもジンの風味に欠かせません。香りが薬草系の苦味と調和して、ジンに爽やかな印象が加わります。丹後の柑橘は香りが濃く、香り高いハーブにも負けない力強さがあります。

Mairingen Extra Fresh Craft Gin 2024 (PREMIUM)

京丹後舞輪源蒸留所がつくる特別な一本【Mairingen Extra Fresh Craft Gin 2024 (PREMIUM)】。

ボタニカルは京丹後産100%。近い土壌で採れたものを合わせると、味わいの相性は間違いありません。

フレッシュクラフトジンが14種類ものボタニカルを組み合わせているのに対し、このプレミアムラインでは「ネズミサシ」「ハイネズ」「生蜂蜜」というわずか3種類のボタニカルに絞り込まれています。

特に目を引くのが、ジンに欠かせないボタニカル「ジュニパーベリー」。世界中に様々な種が分布していますが、ジンに使用されるジュニパーベリーは、一般的に東南ヨーロッパのバルカン半島などで生育しているヨーロッパ産のものが多いという現状があります。

日本にも固有のジュニパーベリーの種はありますがその生育量は非常に少なく、多くのジャパニーズジンのメーカーは、海外産のものを取り寄せて使用しています。しかし、Mairingen Extra Fresh Craft Gin 2024においては、希少な国産の種のジュニパーベリーを使用することによって、他のジンにはない特別な風味を感じることができます。

それでは、ジンのボタニカルとその風味についてご紹介していきます。

山のジュニパーベリー「ネズミサシ」

ネズミサシは、日本列島の本州や北海道に分布している日本のジュニパーベリーの種です。

険しい丹後の山々に自生していて、特に鋭い葉が特徴的です。雨や雪の日も15kgの装備を背負い、尾根まで這うように登り、一粒ずつ手で摘み取っていく。その作業は非常に原始的で過酷なもので、収穫には体力と根気が必要となってきます。

深い青さのある風味と力強さが特徴的で、ジンの骨格はこのネズミサシによって作られます。

海のジュニパーベリー「ハイネズ」

もう一つのジュニパーベリーは「ハイネズ」と呼ばれるもの。海岸沿いに広がり、潮風を浴びながら地を這うように育ちます。そのトゲトゲした葉はネズミサシ以上に鋭く、革手袋ですらすぐに破れてしまうほど。収穫の際には、地面すれすれに身を寄せて一粒ずつ丁寧に摘み取る作業が必要となり、ネズミサシと同様、根気と忍耐が必要になってきます。

重厚で熟成感がある香りが特徴的で、ネズミサシの爽快さと重なり合うことによって、山と海が重なり合うような奥行きをジンに与えます。

山が育む「生蜂蜜」

さらに、蒸留所から歩いてすぐの森で採れる「生蜂蜜」。空気と水が綺麗な国定公園の花々から採られた蜜には、季節ごとの風味がそのまま表現されています。

柔らかな甘みとフローラルな余韻によって、ジン全体に丸みを与える役割を果たしています。

トータルの味わい

口に含むとまずネズミサシの鮮烈さが感じられ、その後、ハイネズの潮風を思わせるアロマが現れてきます。最後に、蜂蜜の優しい甘みがふんわりと長い余韻を残す。素材は3種類のみですが、個性の違う風味が互いに補い合うことで、立体的な味わいが完成されます。

繊細な味の層、複雑でありながら飲み口はスッキリ。余韻も心地よく、プレミアムジンの名にふさわしい極上の一本と言えるでしょう!

舞輪源の風味を決定づける2種類の水質「超軟水」と「超硬水」

舞輪源のジンづくりを語るうえで欠かせない存在が「水」です。京丹後の山には、長い年月をかけて育まれる二種類の湧き水があり、フレッシュクラフトジンにはその両方が贅沢に用いられています。

超軟水(硬度10)

山頂近くから湧き出る超軟水は、雨が地中深くに染み込み、約100年もの歳月をかけてろ過されたものです。硬度10という数値は国内でも稀少な部類で、包み込む様なやわらかさと、繊細な口当たりを感じることができます。ボタニカルの香りをやさしく広げ、ゆったりと広がるように余韻が残ります。

超硬水(硬度180)

一方で、山の麓から流れ出る湧水は硬度180の超硬水。海外の水に匹敵するほどの強いミネラル感を持ち、ジンに厚みを与えます。軟水と対比的に味わいを重ねることで、複雑さと奥行きを感じることができます。

水によって生まれる調和

当初、真山さんは軟水を中心にレシピを組み立てていました。しかし、超硬水が持つ力強さと、引き出されるボタニカルの香りの違いに深く感銘を受け、「水」こそがジンの味わいを大きく左右することに気づいたのです。

その発見をきっかけに、軟水だけではボタニカルの香りが広がりすぎると感じ、レシピは一から見直されました。2種類の水を最適な比率で組み合わせることで、最高の香り立ちと余韻を感じられるようになりました。

銘水を用いる蒸留所は数あれど、これほど性質の異なる二種類の水を使い分けている例はほとんどありません。京丹後の自然が長い年月をかけて育んだ2種類の「水」が、他のジンと一線を画す大きな違いであることは間違いありません。

受賞歴

京丹後舞輪源蒸留所が本格的に稼働を始めたのは2024年春。まだ誕生して間もない蒸留所ですが、すでに世界の品評会で高い評価を受けています。

「Mairingen Fresh Craft Gin (ORIGINAL)」は、世界三大スピリッツコンペティションのひとつ「San Francisco World Spirits Competition 2025」で最高評価となる「最高金賞(Double Gold)」を獲得。さらに、その年に出品された数あるジンの中から限られた銘柄だけが選ばれる「Best of Class」にもノミネートされました。

そして、【Mairingen Extra Fresh Craft Gin 2024 (PREMIUM)】も同じ大会で「金賞(Gold)」を受賞。わずか3種類のボタニカルで組み立てられたシンプルなジンが、世界の審査員によって認められました。

設立から間もない蒸留所が、数百本のスケールでつくったジンでこれほどの賞を立て続けに受賞するのは極めて異例の快挙と言えるでしょう。京丹後の自然から生まれたジンが、世界中のプロフェッショナルたちに強い印象を与える存在であることを証明したのです。

最後に

京丹後舞輪源蒸留所についての記事、いかがでしたでしょうか。

京丹後の雄大な自然の中で育まれたボタニカルと、百年の歳月を経て湧き出る水。そのふたつが蒸留家・真山さんの手によって組み合わされ、ここでしか出来えないジンが誕生しました。まだ歩みを始めたばかりの蒸留所ですが、そのジンには土地の物語と人の想いがぎゅっと込められています。

ぜひ一度、舞輪源のジンを味わってみてください。一口含むだけで、丹後の自然そのものを五感で味わうような体験ができるはず。そして、丹後の自然の力強さとやさしさを感じ取ってみてください!