海と山に囲まれ、古くから温泉地として親しまれてきた静岡県・熱海。国内外から観光客が訪れるこの街に、2024年春、新たなクラフトジンの蒸溜所「SEACLIFF(シークリフ)熱海蒸溜所」が誕生しました。
テーマとなるのは「海に育まれ、海に還るジン」。自然の恵みとともに生きる熱海という土地の魅力を、香りと味わいに凝縮した一杯にして届ける──そんな想いのもとに生まれた蒸溜所です。
蒸溜所の創業者は、バーテンダーとして都内の一流バーや飲食グループで活躍してきた釜谷道夫氏。その豊富な経験と直感をもとに、自身の手で「土地を映すジン」を生み出そうと蒸EACLIFF熱海蒸溜所溜所設立に動き出しました。
今回の記事では、実際に蒸溜所に訪れ、釜谷氏に色々なお話を聞いてきました。

釜谷氏と蒸留所設立に至る思い

釜谷氏は20代でバーテンダーとしての道を歩み始め、銀座、南青山、西麻布といった都内の名店で研鑽を積みました。やがて自身のバー「SEVEN THREE」を西麻布にて14年間経営し、その後は首都圏を中心に展開する、「食」を軸としたライフスタイル提案型の飲食企業「タイソンズ&カンパニー」において、各店舗で提供されるドリンクの監修を担当するなど、多彩な現場経験を重ねてきました。
数々の経験を通じて、「いつか自分の手で酒をつくりたい」という想いが徐々に芽生え始めた釜谷氏。そんな折、仕事で訪れた熱海の土地に心を惹かれ、蒸溜所をつくるという構想が形を取り始めます。驚くべきことに、熱海には蒸留酒を含む酒類を製造する酒蔵が一軒も存在していませんでした。そうした背景もあり、行政の支援を受けながら準備を進め、3年の歳月を経て、ついに2024年「SEACLIFF 熱海蒸溜所」が誕生しました。
蒸溜所の雰囲気

SEACLIFF蒸溜所は、熱海の街の中心から少し離れた静かな通りにあります。施設はかつて畳屋だった建物を活かし、外観の趣をそのままに、内部に最新の設備を融合させたモダンで温かみのある空間に仕上げています。
蒸溜所に併設されたバーでは、クラシックカクテルやテイスティングセット、地元産のフルーツを使った季節のカクテルなどを提供しています。アナログレコードから流れる音楽と、ガラス越しに見えるアーノルドホルスタイン社製の蒸留器の姿が、素敵な時間を演出します。
昼間はカフェ利用も可能で、カウンターからは起雲閣通りをのんびり眺めることができ、熱海の観光街とは少し違う、ゆったりとした時間の流れが、訪れる人を心から癒してくれます。

蒸留器に対するこだわり
ジンづくりの根幹となる蒸留器には、世界的に高い評価を受けるドイツの蒸留器メーカー「Arnold Holstein(アーノルド・ホルスタイン)」社製の300リットル蒸留器を採用しています。

この蒸留器は、年間わずか約200台のみ製造される完全オーダーメイド品で、4代にわたって技術を受け継いできたアーノルド・ホルスタイン社の熟練職人たちが、丹念に仕上げた逸品です。
導入にあたって釜谷氏はドイツを訪れ、アーノルド・ホルスタイン社の現地スタッフと綿密な協議を行いました。滞在中には、同社の社員の案内により偶然にも名門「モンキー47」の蒸溜所を見学する機会にも恵まれ、設備や環境づくりに対する理解をさらに深めることができ、蒸溜環境の整備においても、一切の妥協をしませんでした。
こだわりの末に生まれた『SEACLIFF SPIRITS = シークリフスピリッツ』
蒸溜所へのこだわりもさることながら、そこで造られるジンにも随所に工夫と情熱が込められています。では、その特徴について詳しく見ていきましょう。
6つテーマを持つスピリッツのブレンド

SEACLIFFのジンは、「海に育まれ、海に還るジン」というコンセプトのもと、熱海や伊豆で育った柑橘やハーブ、海藻などを活かしたクラフトジン。中でも「SEACLIFF STANDARD CRAFT GIN」は、全21種類のボタニカルを用い、6つのテーマに分類されたスピリッツを個別に蒸留・ブレンドして仕上げられます。
- コア(熱海ドライジン):熱海の橙を中心に構成されたジン。飲食店向けのプロダクトであり、蒸溜所でのみ購入可能。
- シトラス:セミノールや橙、レモンなど。特に橙は、ジュニパーベリーとの相性から釜谷氏が蒸溜所を始めるきっかけにもなった特別な存在。
- ハーバル:スペアミントやイエルバブエナ、ネトルなどの清涼感。
- フローラル:レモンバーベナやカモミール、ラベンダーなど。
- シーベジタブル:地元で採れるハバノリを使用。熱海の海の香りを再現。
- ビャクシン:ジンの主原料ジュニパーベリーと同属。
こだわりのボタニカル

SEACLIFFで使われるボタニカルは、単なる素材ではなく「熱海の自然そのもの」です。特に釜谷氏が強い思いを寄せるのが橙。香り高く、正月飾りとしても使われるこの果実は、以前は利用されず破棄されることも多かったとか。
橙を味わってみた時に思ったのが「ジュニパーベリーと合うかもしれない」──この着想から、蒸溜所を始める大きなきっかけが生まれたといいます。
もう一つの注目すべきボタニカルが「ビャクシン」です。その希少性ゆえに、手間を惜しまず丁寧に使用されています。創建2400年を誇る伊豆最古の社・白濱神社から特別な許可を得て、境内に自生する天然のビャクシンを採取。丸一日かけてもごくわずかしか採れない、非常に貴重な素材です。
このビャクシンとジュニパーベリー、二種のボタニカルが織りなす重層的で奥行きのある味わいも特徴的です。
さらに、熱海の海を象徴するボタニカルとして用いられているのが「ハバノリ」です。サーフィンを趣味とする釜谷氏の海への深い想いが込められており、そこから引き出される繊細な旨味が、このジンに、他にはない個性と魅力を与えています。
個別蒸留とブレンドによって生み出された、調和のとれた奥深い風味
SEACLIFFでは、21種類のボタニカルを6つのカテゴリーに分け、それぞれ個別に蒸留。抽出されたスピリッツを、テーマごとに比率を調整しながらブレンドすることで、複雑で立体的な味わいを実現しています。
ベーススピリッツには国産ライススピリッツを使用。雑味が少なくクリアな味わいで、ボタニカルの繊細な香りをしっかりと引き立てます。
グラスに注いだ瞬間、立ち上がるのは橙を中心としたシトラスの香り。その後、フローラルな甘さ、ハーバルの爽快感、ビャクシンやハバノリの旨味が重なり合い、複雑ながら調和のとれた後味へと続いていきます。
ソーダで割れば爽やかさが引き立ち、ロックで飲めば素材の奥深さをじっくりと味わえます。クラフトジンとしての完成度はもちろん、その背景にある物語が、味わいにさらなる広がりを与えてくれます。
最後に

「SEACLIFF」という名前は、海と崖を意味する“Sea Cliff”から取ったもの。実際には波が岩を削ってできた波食崖を指し、熱海の錦ヶ浦や曽我ヶ浦などの絶景にも由来しています。
自然のリズムと共に育まれた素材を、蒸溜という営みによってひとつの香りと味に凝縮し、再び海へと還していく──そんな循環する命のような世界観が、SEACLIFFのジンには込められています。
「この一杯が、熱海の風景や空気、時間を思い出させてくれる存在になれたら嬉しいです」と語る釜谷氏。
熱海の街を歩いた帰り道に、ふらっと立ち寄りたくなるような、心地よい余韻が広がる場所──それがSEACLIFF 熱海蒸溜所です。熱海を訪れた際には、ぜひ蒸溜所を訪ね、釜谷氏が手がけるジンを使った珠玉のカクテルを味わってみてはいかがでしょうか。その一杯には、素材へのこだわりや蒸溜への情熱、そして熱海という土地への深い愛情が込められており、ここでしか体験できない特別な味わいが広がります。
また、「シークリフ・スタンダード クラフトジン」は酒販店でもお買い求めいただけます。熱海の風景を思い浮かべながら、ご自宅でゆっくりと自分好みの一杯をお楽しみください。
