naturadistill 川内村蒸溜所 【ネッシーさんの!突撃!隣の!クラフトジン製造所!vol.014】

ゲストライター
ネッシーさん

「ご存知スコットランド出身のUMA(Undoubtedly Magnificent Animal)。吉祥寺The Wigtownに時折現れる。趣味は蒸溜所巡り。最近のマイブームはぬい活。愛情とは決して一方的なものではなく、受け入れてくれる客体なくしてあり得ないのだ」

スコットランド出身のネッシーさんが日々成長し続ける国産クラフトジンの製造所へと視察へ向かうシリーズ。
第14弾となる今回は、福島県双葉郡川内村にあるnaturadistill蒸溜所を訪れました。

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雪景色

2024年の創業からちょうど一年。
この夏のクラフトジン甲子園では初出場ながら見事優勝に輝き、業界内での注目も増している蒸溜所です。甲子園優勝をお祝いしての表敬訪問ですね。

東京からはまずは新幹線で郡山まで。そこからさらにバスを2本乗り継いで、ようやく川内村に到着です。

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空気が澄んでいてめちゃくちゃ寒い
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雪景色
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村内を流れる木戸川

蒸溜所のある川内村は人口2,000人ほどの小さな村。
蒸溜所はそのほぼ中心に位置しております。

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いざ
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元々薬局の倉庫だった建物を改装した蒸溜所。ジンがかつては薬酒だった歴史を踏まえると、昔から今まで村の人々の身体と心を癒す薬を提供している場所といえるね

代表の大島さんは大学進学とともに福島に移住。
川内村の豊かな自然と土地のポテンシャルに魅了されて、学生のうちから村の特産品を使用したキッチンカー事業やフルーツハーブティーブランドなどを起業してきた方です。
またそれらの事業と並行して、川内村のお隣である田村市にあるクラフトビールメーカー「ホップジャパン」にて醸造担当として勤務。酒造に携わるとともに「自分の表現したいものを自由に造る」というクラフトの精神に触れたことが、今回の蒸溜所立ち上げにも影響しております。

ご挨拶を済ませて早速蒸溜所内部を見学させていただきます。

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製造スペースに入るとすぐに目に飛び込んでくるステンレス製の減圧蒸留機
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タンクが並ぶ製造スペース

製造の案内をしてくださったのは製造責任者の高橋さん。
代表の大島さんとは学生時代からの付き合いで、蒸溜所立ち上げに際してそれまで勤めていた会社を辞めて川内村へ移住してきたんだそう。
以前は酒造とは全く関係のない通信系の会社に勤めていたそうで、製造は全くの未経験からのスタート。外部の専門家からの指導を受けながら実際の製造を通して少しずつ自分のやり方を見つけていっております。

ジンはアイデア一つでさまざまなアプローチができるお酒。
製造においても「蒸溜の温度帯を変えたらどうなるだろう?」「漬け込みの度数を変えたら?」「ボタニカルの状態を変えてみたら?」と、一つ一つの工程を実際に試しながら、自分の思い通りのスピリッツを取り出していきます。
実験的な発想がスピリッツという結果として出てくる工程にはしっかりとした論理があり「ここをこう変えたらこうなる」を積み重ねていった先で、思い通りのスピリッツが取れた時の喜びはひとしおですね。
高橋さんも、実験をしながらロジックを組んでいく作業が性に合っている様子で「楽しいですよ」と、笑顔で蒸溜についての案内をしてくださいました。造り手が楽しそうにやっていると嬉しいですね。

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訪れた時間は蒸溜の真っ最中。橙スピリッツのテールをカットするタイミングを見定めている時間で、蒸溜機の様子を注意深く確認しながら案内をしてくださいました。お忙しい中お邪魔してしまったね

ナチュラディスティルのジン製造の特徴は大きく2つ。
ひとつはボタニカルを単一蒸溜したあとでブレンドするという方法をとっているということ。
そしてもう一つは、蒸溜は全て減圧蒸溜でのみ行っているということです。

減圧蒸溜とは文字通り蒸溜釜内部の気圧を下げて行う蒸溜のことで、気圧を下げることでアルコールの沸点を低くすることができます。
これによって、通常は78度ほどのアルコールの沸点が20度から30度ほどで蒸溜することができるようになるわけですが、この減圧蒸溜最大の利点が、ボタニカルの自然な香りを損ねずに取り出すことができるという点です。

同じ花の香りでも、常圧で取り出すのと減圧で取り出すのとでは驚くほど仕上がりが異なります。
こちらの蒸溜所では「naturadistill」という名前の通り「natural=自然」の香りを「distill=蒸溜」で取り出すことを目標としており、より自然の状態に近いアロマを取り出すために減圧蒸溜という方法をとっております。

自然の香りを取り出すというこだわりは、蒸溜前の漬け込み工程からもみて取れます。
漬け込みにはサトウキビ由来のニュートラルスピリッツを60度まで希釈して使用。それぞれのボタニカルを単一で漬け込み、二週間ほどかけて植物の持つ香味をじっくりとスピリッツに移していきます。
中でも、ナチュラディスティルを象徴するボタニカルとして使用されている「かやの実」はその他のボタニカルよりも長時間の漬け込みで、輪郭をより際立たせております。
低めの度数のスピリッツに長時間浸漬することで、植物本来の香りを取り出すという試みですね。

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蒸溜したてのジュニパーベリースピリッツ。いい匂い

漬け込みが終わったスピリッツは、ボタニカルを取り出した上で蒸溜機に張り込まれます。
ボタニカルを入れたまま加熱する蒸溜所も多いですが、こういったところに「なるべくボタニカル自体に熱を加えない」というこだわりが見えますね。

ヘッドとテールのカットも極薄め。カットされるのは全体の5%ほどで張り込んだスピリッツをできるだけ回収していく造りをしております。
これも「植物の香りを全て取り出したい」という想いからくるもので「水に溶け込んだ分まで回収したい」とおっしゃっておりました。
各ボタニカルから出る香味は、アルコールに溶けやすいものもあれば水に溶けやすいものもあります。不要な精油部分を除いて、それら全てを極力回収するという造りからも「より自然な植物の香りを取り出す」というこだわりが見えますね。

また、各ボタニカルを個別で減圧蒸溜するという方法は、それぞれに合った抽出方法を撮ることができるというメリットがあります。
例えば、かやの実や橘はフレッシュなものを、クロモジやニオイコブシはドライなものを使用するなど、ボタニカルの状態を変えたり、また蒸溜の際にどれだけ圧をかけるかで温度帯を調整したりすることが可能です。
これによって、求める香味をより個別で取り出すことができるわけですね。

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蒸溜機の温度計。液温と蒸気温を極力合わせて蒸溜することで、液体で想定した香りをしっかりと蒸気として取り出すことを目的としている

蒸溜所のある福島県川内村は、標高400メートルとやや高地にあることもあり、夏場は涼しく冬場は寒さが厳しくなります。
外気温の変化は、ボタニカルの抽出期間や蒸溜の際の環流の起こりやすさなど、製造にも影響を及ぼします。季節によって造り方を微調整する必要があるのは大変ですが「自然の魅力を詰め込む」という蒸溜所の姿勢と合わせると、それもまた楽しい作業になりそうですね。

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ボトリング設備

取り出した個別スピリッツは、ブレンド、加水を経てタンクで5日間から1週間は静置して馴染ませます。

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ラベル張りは手作業で行っております

現在は月1,000本ほどのペースで生産をしておりますが、海外展開も見据えて今後は3,000本ペースまで上げていくということ。3,000本手作業でラベリングは相当大変そう〜。

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並ぶ個別ボタニカルスピリッツ

またこちらの蒸溜所では、それぞれのボタニカルスピリッツを使用したブレンド体験をすることもできます。
15-20種類ほどの原酒を好きにブレンドして、世界に一本しかないオリジナルクラフトジンを造る体験もできるので楽しいね。事前予約は必要だけれど、誰でも参加できるのでぜひご体験くださいませ。

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中にはユニークな原酒もあるよ

私も体験をしながら、代表の大島さんにナチュラディスティルのことや川内村のことをお伺いしていきます。

川内村は村全域が福島第一原発から30キロ圏内に含まれております。
村は事故の直後から避難指示が出され、村内全域での避難指示が解除されたのは事故から5年後となる2016年のこと。村の里山で取れる一部の山菜やきのこは今でも出荷制限がかかっているものもあります。

この土地が持つネガティブなイメージを払拭し、もっと多くの方に訪れてもらって魅力を知ってほしい。

同社のフラグシップである「固有種蒸溜酒」には、日本を世界にアピールするという意味もこめられています。
日本原産の植物を使用したジンを世界に向けて発信することで「Fukushima」という響きに付与された意味を、より魅力的な響きへと更新したいという想いが込められているように感じました。

また川内村全域は井戸水が生活用水として使用されており、良質な水資源が豊富にある点も魅力です。
井戸水からは線量は検出されず、大島さんも「水はこの村の魂」とおっしゃっておりましたが、豊かな水源は村の生活を守るのに欠かせないもの。昔から「名水あるところに銘酒あり」と言いますからね。

現在の国産クラフトジンは「その土地が持つ魅力を再発見する」というナラティブな視点で語られることも多く、まだ見ぬ「Hidden Gem(隠れた魅力)」をアピールする媒体としてとても有効に働きます。
「福島の、川内村の魅力をもっと多くの方に届けたい」という大島さんの想いは多くの方を動かしております。
製造に関する技術指導やブレンドなどの商品開発、ブランドデザインには外部の専門家が多く携わっており「ナチュラディスティル」というブランドを日本中に世界中に届けるのに協力しております。

村には全体的にどこかアットホームな雰囲気が流れており、初めて訪れた私も大変リラックスした時間を過ごすことができました。
温泉もありますし、美味しいお酒もある。
今後蒸溜所のある建物は二階を改装してレストラン&バーにする予定もあるということで、楽しみですね。
蒸溜所をきっかけに多くのかたが川内村を訪れて、その土地の魅力を再発見するようなことになれば素敵ですね。それだけの魅力のある土地だと感じました。冬場はめちゃ寒かったですけど。次回は夏に訪れたいですね。川魚が美味しいみたいですし。楽しみー。

今後も様々な商品を展開していく予定があるとのことなので、それも楽しみです。
ぜひみなさまも、ジンを飲みに、温泉に浸かりに、そしてそのアットホームなムードを味わいに、川内村を訪れてみてくださいませ。東京からだとめちゃめちゃアクセスしにくかったですけど。車で。めちゃ素敵な宿もあるので。一泊して。行ってみましょう。

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ネッシーさんは川内村の名誉村民になっている詩人、草野心平の記念館にも訪れたよ。マジでめちゃくちゃ良かった。すごくおすすめです