学生20人がつくったクラフトジン『Dear20s』―「僕らのジンができるまで」プロジェクト

Dear20sジン

「バー」という空間。そこに漂う洗練された空気は魅力的である一方で、馴染みのない人にとっては敷居が高く感じられることもあることでしょう。

特に、お酒を飲み始めたばかりの20代にとって、バーは憧れの場所でありつつも、その重い扉を開けて一歩を踏み出すにはかなりの決心がいるのではないでしょうか。

そして「ジン」というお酒。いつも通っている居酒屋では、常にメニューに載っているお酒ではなく、まだ身近な存在ではないかもしれません。ビールや酎ハイのように気軽に注文できるものと比べると、たとえ名前は聞いたことがあっても、どこか敷居が高いもののように感じてしまう方も多いのではないでしょうか。


「バーは敷居が高い」 「ジンは難しそう」。そんな心理的な距離を少しでも縮めたいという思いから生まれたのが、「僕らのジンができるまで ー学生20人の挑戦ー」= 通称「僕ジン」プロジェクトです。

全国から集まった20人の学生が、ジンの企画、蒸留、デザイン、広報、販売までを自ら手がけ、約半年にわたる開発期間を経て、クラフトジン『Dear20s(ディア トゥエンティーズ)』が完成しました。

集合写真

この一本のジンには、これからお酒と出会う世代へ向けた「最初の一杯」というテーマが込められています。

この度、私たちジンラボジャパンは、2026年3月2日の発売に先駆けて開催されたリリースイベントを訪れ、企画者や参加者の皆さまの想いに直接触れてきました。

「僕らのジンができるまで」という挑戦

このプロジェクトの発起人は、株式会社サイドカー代表の武田光太氏。

中目黒でジントニック専門店「Antonic」やバー「BEEP」を運営する武田氏は、ジンをはじめとする洋酒文化の魅力を広める活動に、真正面から取り組んできました。その中で常に頭の中にあるテーマは、バーや洋酒文化に触れる人の裾野を、いかに広げていくかというものです。

そういったカルチャーは魅力的で奥深いものですが、初めての人にとってはどこか難しそうに見えるものです。そこで武田氏は、次世代を担う世代である学生たち自身に、最初の一杯となるジンを作ってもらうというプロジェクトを構想しました。

この取り組みには、蒸留所、バー、酒販店など、さまざまなお酒の専門家が関わっています。

東京八王子蒸溜所の中澤眞太郎氏が蒸留技術を担当。高田馬場のバー「THE HISAKA」の小倉広康氏がバーテンダーの視点から味わいの監修を行いました。また、洋酒全般を幅広く取りそろえる酒販店の株式会社武蔵屋が、流通や営業面をサポートしています。

こうした専門家たちの協力のもと、学生たちは原料の選定からボトリング、デザイン、広報、販売に至るまで、お酒づくりに関わるほぼすべての工程に携わりました。

「ジンを知らない」という視点

「僕ジン」を進めるにあたっての新しい視点として挙げられるのは、参加した学生の多くが、当初はジンについてほとんど知識を持っていなかったという点です。

一般的に酒造りは専門家の領域であり、知識や経験が重視されます。しかしこのプロジェクトでは、その「知らなさ」がむしろ新しい発想を生み出すきっかけとなり、結果として新鮮な視点として作用します。

既存のジンのルールやスタイルに縛られることなく、「自分たちが飲みたいと思える味とは何か」という視点から味づくりを考えること。武田氏は「お酒の知識がなくても、自分の知っている素材から選べる楽しさを伝えたい」と語ります。

キーボタニカルは「桃」

ジンというお酒は、ジュニパーベリーを中心として、スパイス / ハーブ / フルーツなどといった「ボタニカル」で香り付けをした蒸溜酒のことを指します。必須のボタニカルである「ジュニパーベリー」さえ使用されていれば、その他のボタニカルは造り手の発想次第で無限に組み合わせることができるという、非常に自由度の高いお酒です。

そうした制約の少なさの中で、学生たちが味の方向性を考える際にヒントとしたのは、クラフトジンの世界というよりもむしろ居酒屋のカルチャーでした。居酒屋で気軽に楽しめるファジーネーブルやカシスオレンジ、ピーチウーロンといったカクテルは、お酒の苦味にまだ慣れていない20代にとっても飲みやすいドリンクとして親しまれています。

そうした発想を土台として、彼らがメインボタニカルとして選んだのが「桃」でした。クラフトジンとしてはやや意外な選択かもしれませんが、香りを想像しやすく、多くの人にとって親しみやすいフレーバーでもあります。

難しいボタニカルの組み合わせではなく、まずは一口目で「美味しい」と感じてもらえるという設計思想。それが「Dear20s」の出発点となっています。

東京八王子蒸溜所での蒸留

「Dear20s」の蒸留・製造を担ったのが、「トーキョーハチオウジン」で知られる東京八王子蒸溜所です。蒸溜所の代表であり蒸溜技師でもある中澤眞太郎氏が2021年に設立した蒸溜所で、東京に拠点を置きながらクラフト蒸溜の技術を大切にし、柔軟なレシピ設計と丁寧な蒸溜で知られています。

今回のプロジェクトでは、通常であれば蒸留技師のみが立ち入る領域に学生たちも入り、ボタニカルの調合や投入といった工程を体験しました。

ここで、蒸留という作業が、香りや味わいを細かく設計していく繊細な仕事であることを学生たちは身をもって学ぶこととなります。それを通じて、どのような分野においても、一つの商品を生み出すことがいかに難しいかを知ることができたのは、彼らにとってきっと素晴らしい経験になったのではないでしょうか。

一方で、八王子蒸溜所ほどの熟練の蒸溜所でも、今回の製造は簡単なものではありませんでした。大きな壁となったのがメインボタニカルである「桃」です。桃の香りは蒸留の過程で非常に失われやすく、加熱によって重たい香りに変わってしまうことがあります。

他の蒸溜所でも、扱いの難しさから「桃」を使ったジンの製造を断念したという話を耳にすることが少なからずあり、それほどまでに「桃」は蒸留において扱いの難しいボタニカルとも言えます。

実際に中澤氏も「桃の香りは思った以上に出ない」と語っており、幾度もの試作を重ねることとなります。さまざまな素材を組み合わせながら試行錯誤を重ねる内に、山梨県産の桃ピューレ、ドライピーチ、桃の花といった素材を用い、さらに加水の段階で桃由来の蒸留水を少量加えるという方法を取り入れました。

こうした工夫によって、蒸留酒でありながらフレッシュな桃のニュアンスを感じさせる香りが形になっていきます。

テイスティング

完成したDear20sをグラスに注ぐと、まず柔らかなフルーティーな香りが立ちあがります。トップノートでは桃花や白桃を思わせる華やかなアロマが広がり、ほんのりと桜餅のような甘いニュアンスも感じられます。

口に含むと、ジンの必須のボタニカルである「ジュニパーベリー」を骨格に感じられ、コリアンダーやアンジェリカルートといった、クラシカルなボタニカルが奥行きを与えています。桃由来の香りは強すぎるものではなく、ジンとしてのバランスを保ちながらもフルーティーな印象を感じることができます。

トニックウォーターで割るとフルーティーさが前面に現れ、みずみずしい白桃の香りが印象的。甘いフルーツの印象の奥には、シトラスピールやスパイスが程よくビターさを与え、後味を引き締めています。初心者にも親しみやすい味わいでありながら、ジンとしての骨格もしっかりと感じられる仕上がりとなりました。

ボトルメールというデザイン

商品名の「Dear20s」は、日本大学芸術学部の学生による提案から生まれました。「Dear」という言葉は手紙の書き出しに使われるものであり、「20s」にはターゲットである20代と、プロジェクトに参加した20人の学生という二つの意味が重ねられています。

デザインのコンセプトは「ボトルメール」。蒸留酒は長期間の保存に耐えうるため、20年後や30年後に開けても楽しむことができ、その存在は、まるで未来へ届ける手紙のようにも感じられます。

ラベルにはメッセージを書き込める余白もあり、未来の自分へ向けたメッセージを書いたり、大切な人への贈り物として使うこともできます。単なるお酒としてではなく、時間や記憶と結びついた一本として設計されているという点も、このジンの素晴らしいところです。

「Dear20s」を彩る3つのシグネチャー・カクテル

リリースイベントでは、バーテンダー経験のある学生らが考案した、初心者でも楽しみやすい3種類のカクテルが提供されました。どんな割材とも相性よく楽しめる柔軟さがあり、コンビニで手に入る材料でも美味しく飲める、特別な技術や道具がなくても気軽に家飲みで楽しめるジンとして、カクテルにもよく表れています。

Dear20s ジンバック: 

ジンをジンジャーエールで割った一杯。レモンの香りと、ジンジャーエールのキリッとした刺激がベストマッチし、居酒屋のジンバックとは違った奥深さを楽しめます。

ソルティアロマフロンティア: 

ジンとグレープフルーツジュースを組み合わせた、さっぱりとしたカクテル。グラスの縁に添えられた塩が、桃の優しい香りとグレープフルーツの酸味を引き立て、お酒を飲み始めたばかりの20代にとっても、味覚の新境地を感じられることでしょう。

ファジーネーブルブロッサム:

 ジンとオレンジジュースを用いた、「ファジーネーブルの一歩先」を行くカクテルです。「ブロッサム」という名前には、20代の若者たちが「桃の花のように咲いていく」という願いが込められています。

手作業で完成した450本

ボタニカルの計量からボトリング、ラベリング、梱包まで、学生たちが手作業で行っており、450本限定で生産されました。ボタニカルの計量は0.01g単位の繊細な作業となり、ボトルの首に装着するフィルムの加工にも丁寧な手作業が求められます。

効率だけを考えれば、すべてを機械化する方が簡単でしたが、学生たちは一本一本のボトルに向き合うことで、商品が完成するまでの重みを実感しました。学生たちによるプロジェクトへの参加によって、本来であれば原材料価格を考慮すると6000円台になる価格構造を抑え、5000円という価格での販売も実現しています。

「Dear20s」最初の一杯として

「Dear20s」は、バー文化への入り口となり、蒸留酒の世界と出会うための一本になることを目指して生まれました。企画から開発、そして販売に至るまで、ひとつのお酒が形になるまでの道のりを体験したことは、参加した学生たちにとってきっと特別な経験だったのではないでしょうか。

このジンがきっかけとなり、誰かが初めてバーの扉を開くことがあれば、このプロジェクトの意味はさらに広がっていくことでしょう。

20代というかけがえのない時間の中で生まれた一杯。ぜひ若者たちが力を出し合って完成させた「Dear20s」を味わってみてください。