減圧蒸留とは

減圧蒸留」、またの名を「真空蒸留」と呼ばれるお酒の蒸留方法をご存じでしょうか?英語では「Vacuum Distillation (バキューム・ディスティレーション)」と呼ばれる方法で、この製法を採用しているジンは多くはないものの、美味しい銘柄ばかりだというのは間違いありません。

普通のジンとは一線を画した科学的なアプローチで、ボタニカルの風味を存分に活かせる蒸留方法です。今回の記事では、そんな「減圧蒸留」について解説していきます。また、減圧蒸留でつくられている銘柄も紹介しますので、気になった方は是非試しに飲んでみてください!

減圧蒸留 その原理とは

通常の蒸留

一般的に蒸留酒(スピリッツ)の蒸留とは、アルコールと水の沸点の差を利用し、沸点が低いアルコール分を先に気化させて、アルコールの濃度を凝縮して度数を高くするという製造方法です。

アルコールの沸点は78℃付近、水の沸点は100℃ですが、この「減圧蒸留」という方法を採用すれば、沸点を20℃-30℃の間に設定することができます。

多くの減圧蒸留器はガラス製かステンレス製で、減圧ポンプを使って蒸留窯の中の空気を抜き、気圧を低い状態にしてアルコール分を含む発酵液(もろみ)を熱して蒸留を行います。

ちなみに、冒頭で「減圧蒸留」は「真空蒸留」とも呼ばれると書きましたが、厳密に言うと気圧の程度に違いがあり、200mmHg以上の圧力で行う蒸留が「減圧蒸留」,200mmHg以下の場合には「真空蒸留」という呼び方になります。

減圧蒸留のメリット

pestle, herbs, spices

低い温度で沸点に到達することで、ボタニカルの香味を通常より低い温度下で抽出できるようになります。それによって素材本来の風味を損なわずに、香り高さを保つことが出来るということですね。

例えば、スパイスなどのボタニカルは熱にとても強く、高熱で加熱されても香味には影響はありません。それに比べ、フレッシュフルーツなどといった水分の多い素材は、高温下では風味が飛んでしまいがちになります。また、アロマティックな花びらも熱に弱く、高温下では焦げや酸化が発生する恐れもあり、ネガティブな風味がアルコールに移ってしまいます。

それらのマイナス要素を避けることができ、高温で加熱する蒸留方法よりボタニカルの繊細な風味を抽出できる点や、雑味の抽出を抑えてよりクリアなスピリッツに仕上げられるということが最大の特徴でしょう。

clear glass bottle with gold beads

ジンなどの高アルコール濃度のスピリッツではこの蒸留方法が採用されていることは少ないのですが、実は、焼酎の製造において多くの銘柄がこの方法が使われています。素材の特性を活かしたクリアな焼酎に仕上げられるということが決め手ですね。

減圧蒸留でつくられているジン 4選

SACRED GIN : セイクレッド・ジン

『セイクレッド・ジン』のつくり手であるイアン・ハートはロンドン近郊で生まれ、幼い頃から科学と蒸留に興味を持ち、様々な実験をするような少年でした。大学に進学して自然科学の学位を取り、一旦はウォール・ストリートで投資家として生計を立てていたという異色の経歴を経て、生まれ育った家に戻りそこに蒸溜所を設立しました。

彼が使用する減圧蒸留器は、手作りのガラス製でオーダーメイドで作られたもので、細部まで蒸留をコントロール出来るものです。科学的アプローチを駆使してのお酒づくりは、子供の頃から長年培ってきた実験好きがもとになっており、彼にしか作れない絶妙なバランスのジンに仕上がっています。

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MARCONI 46 : マルコーニ 46

イタリア原産で、ワインの搾りかすのブドウから作られる蒸留酒「グラッパ」。1898年から続く『POLI』社はグラッパづくりの老舗として知られています。そんなPOLI社ですが、地元の農業大学とのコラボレーションをして、フルーツの風味を最大限に抽出できる減圧蒸留器「The “bain-marie” Poli stills」を共同開発しました。

フルーツを素材とするグラッパのエキスパートが携わった蒸留器。それによって作られているのが『マルコーニ 46』です。モンタナ松やミントといったイタリアならではのボタニカルを使用しつつ、減圧蒸留によって丁寧に抽出されたマスカットの風味によってフルーティーさが最大限に発揮されています。イタリアン・ジンの一つの到達点と言っても過言ではないでしょう!

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Greenhook Ginsmiths American Dry Gin:グリーンフック・アメリカン・ドライジン

「Ginsmiths=ジン職人」と名付けられたこのジンは、その名の通り、ジンづくりに特化した職人の手によって作られています。アメリカでは、ウォッカとジン、ウイスキーとジンといったように、数種類のスピリッツを製造している蒸留所が多いのですが、ニューヨークのブルックリンに建てられたこの蒸溜所ではジンのみを製造しているので、まさにジンの職人と言っても過言はないでしょう。

一般的なジンに使用されるような、コリアンダーやシナモンといったスパイスや、レモン、オレンジといった柑橘系のボタニカルに加え、カモミールやエルダーフラワーなどのフローラルでデリケートなボタニカルが使用されているので、低めの温度で緩やかにアロマを抽出していくには減圧蒸留器はうってつけですね。

ジャパニーズクラフトジンROKU(六)

日本のお酒メーカーの最大手の一つ、「サントリー」さんが作るジンです。低価格帯でお求め易い「翆」と、プレミアムジンである「六」の二大ジンはよく知られている銘柄ですよね。

日本ならではの6種類のボタニカル、桜、桜葉、煎茶、玉露、山椒、柚子をキーボタニカルにしつつ、トラディショナルなボタニカルとのブレンドにより、バランスが取れたジンに仕上がっており、国内外問わず絶賛されています。

実はこの「六」にも減圧蒸留が採用されています。全てのボタニカルではないのですが、桜を蒸留する際に、他のボタニカルと分けてその繊細な風味を減圧蒸留で抽出しています。

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ジンのつくりかたについての解説記事はこちら→ジンのつくりかた

書籍:ジン大全

書籍:ジンのすべて

書籍:THE GIN DICTIONARY

Liquor Page : 焼酎でよく見る「減圧蒸留」と「常圧蒸留」の違いって何?

コトバンク:世界大百科事典内の減圧蒸留の言及

SACRED GIN ofiicial site : THE ORIGIN OF SACRE SPIRITS 

POLI official site : The “bain-marie” Poli stills , MARCONI 46

SEEQUOR official site :GREENHOOK GINSMITHSAMERICAN DRY GIN

サントリー イエノバ : ジャパニーズクラフトジンROKU(六)