八王子 東京八王子蒸溜所 【ネッシーさんの!突撃!隣の!クラフトジン製造所! vol.003】

ゲストライター
ネッシーさん

「ご存知スコットランド出身のUMA(Undoubtedly Magnificent Animal)。吉祥寺The Wigtownに時折現れる。趣味は蒸溜所巡り。「うなぎ」という単語に敏感で、聞こえるとちょっとむっとする。」

スコットランド出身のネッシーさんが、日本国内のクラフトジン製造所をめぐる突撃企画第三弾となる今回にネッシーさんが訪れたのは、西東京に2021年に誕生した新しい蒸溜所、東京八王子蒸溜所です。

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ネッシーさん現る

JR高尾駅から徒歩25分、京王線狭間駅からは徒歩10分ほどで見えてくる瀟洒な建物が今回の目的地です。お洒落ですね。正面の大きなガラス窓越しに見える設備に胸を躍らせながらご挨拶をし、早速見学開始です。

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お洒落すぎる

2階にあるこれまた洒落た雰囲気のバーから、きっちりと清潔な雰囲気の漂う製造現場へ。販売担当の小笠原さんがまず紹介してくれたのは、すべてのジン造りの核となるジュニパーベリーです。

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つやつや

こちらでは複数の原産国のジュニパーベリーを試しており、前回(2022年10月)にお伺いした際は北マケドニア産のジュニパーベリーを使用していたかと思うのですが、今回紹介をされたのは北マケドニア産とボスニア産の2種類。どちらも実際に口にしてみると、甘さやスパイシーさなど風味に差があり、当然これらを使用して造られるジンにも違いが生まれるとのこと。少しずつ味わいを調整しながらリアルタイムで変化していく商品を楽しむことができるのは、今のクラフトジンシーンだけの楽しみ方ですね。

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いい匂いがする

使用するボタニカルは基本的に全てドライのものを使用するとのこと。品質の安定というのがその一番の理由で、季節によって味わいが変化するフレッシュなボタニカルは使用しないということです。先ほどのジュニパーベリーのように少しづつ違う産地のものを試しながらも、スタンスとしては年間を通してブレのない、堅実な味わいを目指している様子です。”王道”の味わいを”堅実”な造りで”安定”して造り続けるということが目標だと感じました。

それぞれのボタニカルの産地に関する調整もさることながら、さらに細かい調整を行なっていることが伺えるのがこちら。ボタニカルを潰したり切り刻んだりするグラインダーやカッターです。

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こちらはグラインダー
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こちらがカッター

ボタニカルをどのような状態で扱うかによっても出来上がるジンの味わいは変わります。こちらではそれぞれのボタニカルを適切に潰したり刻んだりしてからベーススピリッツに浸漬するとのことですが、例えばジュニパーベリー。現在は全体量の9割は潰して残りの1割は丸のまま使用して、ボタニカルから出る油分などを調整しているとのこと。この要領で、使用するボタニカル全てに適切な処置を施してからベーススピリッツへ投入するとのことで、この辺りも半年前にお伺いした時と比べてさらに細かくなっているように感じました。日々、細かい調整を行なって王道を突き詰めているということですね。

そうして、適切な処置を施したボタニカルを漬け込むベーススピリッツが、東京八王子蒸溜所の一つの大きなこだわりである「コーンスピリッツ」です。

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タンクが並ぶ製造ルーム

クラフトジン製造に於いて、味わいを決定付ける一つの大きな要素に「ベーススピリッツの原料」があります。ジンの製造にはそもそも原料による規定は設けられておらず、それゆえにどの原料由来のスピリッツをベースとして使用するかは、とても大きな要素なんですね。米や芋、小麦、大麦、サトウキビに各種フルーツ。様々なベーススピリッツの中から東京八王子蒸溜所が選んだのはトウモロコシ。これも、王道の味わいを目指すという同社のスタンスが大きく反映されております。
EUの規定では、ロンドンドライスタイルのジンの製造には「96度以上のニュートラルスピリッツの使用」が求められており、同社ではその中でも特有の甘さと柔らかな質感を持ったコーンスピリッツを使用することで、国産のクラフトジンでありながら本格ロンドンドライジンの味わいを目指しております。
ツアーと試飲の時間を通して、小笠原さんが何度も「弊社では普通のジンを目指しています」「目立たないジンを造っている」と仰っていたのが印象的でしたね。
キャッチーな味わいや強烈なフックを作らずに、普段飲みで安心して楽しめるジンこそが同社の目指すところで、50年100年といった長い時間を超えることができる普遍的で正道を行く「クラフトジン」というものを目指している印象でした。

そして、そんな普遍的なジンを製造するのに大きな役割を果たしているのがこちら。

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最新式のハイブリッドスチルだ!

ドイツのコーテ社製のハイブリッドスチル
これは、同社の代表である中澤さんがジン製造の研修に行った、アメリカのコーヴァル蒸溜所でも採用されているスチルメーカーですね。
こちらのスチルは、一度設定を組めばあとは全自動で蒸留の工程を行なってくれるというスグレモノ。当然、その分細かいセッティングが必要となってくるのですが、一度そのプログラムを組んでしまえば、あとは毎回同じクオリティのジンを製造することができるという理屈です。普遍的ですね。

しかし、言うは易しとはこのことで、季節によってスチル内の温度も調整が必要で、そのプログラムを組むのが大変なんだとか。そりゃそうですね。

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ポットスチルの中。つやつや
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連続式のカラムスチルも使用します

こちらでは、ポットスチルとカラムスチルの両方を製造に使用しているとのこと。特にカラムスチルの方では、同社の定番ジンである「トーキョーハチオウジン」の2種「クラシック」と「エルダーフラワー」のどちらを製造するかによって、挟み込むプレートの枚数を変えており、ここでも細かい調整と「普通のジン」を造るための洗練されたスピリッツを取り出すこだわりが見えました。
こちらのスチルではバスケットも仕込むことが出来るんだそうですが、現在は使用しておらず、全て浸漬のみで製造しているとのことです。

洗練されたスピリッツはタンクに保管され、数週間静置された後でフィルタリングを施してボトリングされます。
この辺りのプロセスも、クリーンなスピリッツを求めるハチオウジンらしい造りだと感じましたね。

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蒸留したてのハチオウジン。数週間静置することでアロマがまとまるんだそう
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ボトリング設備
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こちらのフィルターを通してからボトリング
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ラベル貼りも全て手作業です

セッティングさえ組めばボタン一つで完結してしまう蒸溜工程とは裏腹に、これらのボトリング作業は全て手作業。特徴的な形状のボトルはフランスから輸入しているとのことです。
一回の仕込みでボトル換算400本ほどのスピリッツが取り出せるということで、それらの作業は製造担当のスタッフさんのみならず、事務方のスタッフさんも総出で行われるんだそう。もくもくとボトリングして、ラベリングして、検品して。案内してくださった小笠原さんも「この作業が一番大変です」と笑っておりました。いいですね。

そんなボトリングスペースの片隅に置かれていたのがこちら。

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試験用のミニスチル

こちらのスチルを使用して、新しい商品の開発や、定番商品のレシピの調整を行なっているとのこと。各ボタニカルをどれだけ投入するか、グラム単位での試作を繰り返し、ようやく決まったレシピを正規のスチルで試してみると、やっぱり味わいが異なるなんてこともあるんだそうで、それを計算してまた微調整が必要となる。「蒸溜作業はボタンを押すだけだから簡単」なんて笑っておりましたが、そのボタンを押すに至るまでに、気の遠くなるような作業と緻密な計算が隠されているわけですね。改めて商品開発の難しさと、遠大な志を感じました。

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保管庫

無事ラベル貼りまで完了したボトルたちは、こちらの保管庫で出荷までの時間を待ちます。現在は地元八王子の飲食店はもちろん、国内での販売が主とのことでしたが、今後は海外にも商品を届けていくという計画もあるんだそうで、この小さな倉庫から世界各地にハチオウジンが広がっていく様を想像すると、なんともわくわくしますね。

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保管庫は温度湿度が一定になるように保たれている

見学を終えたら、最後は設備を見下ろす2階のバーで商品の試飲です。

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ベースとなる12種類のボタニカルは実際にアロマを嗅いだり食べることもできる

東京八王子蒸溜所を運営している株式会社大信は元々プラスチック製品を製造している会社。
蒸溜所の隣の工場では現在、スケートリンクの下に不凍液を送るためのチューブを製造しているとのことで、スケートリンクの。。?不凍液。。?めちゃめちゃニッチだ。。ってなりましたね。

代表の中澤さんはそんな家業を継いだ三代目。音楽家としてオーケストラを主宰する一面も持つ多才な方です。
目立たないところで社会を支える家業と、「目立たないジン」を目指すという東京八王子蒸溜所のスタンスとは、どこか共通するところがあるようにも感じました。消費傾向が”モノ”から”コト”に変わっていく世間の中で、長年の”ものづくり”によって培われた技術と哲学、そこに音楽家としての感性をミックスして、新しいジン造りというフィールドに落とし込んでいく。そうして産まれた「トーキョーハチオウジン」は、間違いなくクラシックで、かつ現代的。極力オートメーション化された製造工程は、安易なストーリーに走りがちな現代に於いてどこまでも実直で前向きで、ものづくりに対するプライドを感じさせるものでした。

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新商品のプロトタイプも試させていただきました。
スパイスドジンながら、やはり中心にしっかりとジュニパーの主張がある

ツアーの最中に繰り返された「普通のジンを目指す」という言葉は、時代や流行に左右されない普遍的な商品を造るという決意の表れで、その決意は商品にもしっかりと反映されているように感じました。普通のジン。カッコいいですね。

東京八王子から世界へ、そして50年100年と、時空間を超えて広がる普遍的なクラフトジン。ぜひそのクラシックな味わいをお試しくださいませ!

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代表の中澤さんと販売担当の小笠原さん。イケてる2階のバースペースで
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東京八王子蒸溜所

〒193-0942 東京都八王子市椚田町1213−5