東洋と西洋が交差するシンガポールから生まれたクラフトジン。『TANGLIN GIN (タングリン・ジン)』

皆さん、シンガポールのお酒と言えばどんな種類のものがすぐ頭に浮かびますか?

例えば「中国だったら紹興酒とかあるけど、シンガポールってどんなお酒があったかな…。」という様に、シンガポールならではのお酒というものがパッと浮かぶ方はなかなか少ないのではないでしょうか。

東南アジアに旅行したことがある方であれば、1番最初に思い浮かぶお酒として「タイガービール」などのビールを挙げることができるでしょう。

蒸留酒 = スピリッツの観点から眺めてみると、シンガポールにはクラフトスピリッツの蒸留所は数年前までは存在しておらず、ジンにおいては他国からの輸入品のみが流通しているという状況でした。

そんなシンガポールにおいて、初の自国生産となるジンが近年誕生しました。それが、今回ご紹介する「TANGLIN GIN = タングリン・ジン」です。

シンガポールのバーカルチャー

シンガポールは、アジアとヨーロッパ間貿易の中継点として重要な拠点であり、また、アジアの金融・経済においても重要な役割を果たしています。そして、国全体がシンガポール市の一つの都市のみで構成されており、国の面積は狭いにも関わらず世界中から富裕層が集まってくる国際都市としての側面もあります。

飲食の文化もとても興味深いものがあり、伝統的な屋台文化から超高級レストランまで、多様性が非常に高く、日本と並んでアジアの食文化の中心として知られています。

お酒の文化に目を向けると、酒税が高いこともあり、比較的酒税の安いビールを飲む文化はありますが、蒸留酒を飲むイメージはあまりないのではないでしょうか。実は、シンガポールではお酒の規制がとても厳しく、22:30 – 7:00までのお酒の販売・レストランやバーでのお酒の提供は法律によって基本的に禁止されており、深夜のお酒の提供は認可されたバーなどでしか許されていません。

この様にお酒に対する法制度は厳しいのですが、世界から富裕層が集まってくることもあり、ホテルバーを中心としたカクテルを提供する「バーカルチャー」は非常に盛んで先進的です。シンガポールはアジアのカクテル文化の中心都市として知られ、隠れ家的な「スピークイージー」のようなバーから、豪華な広いラウンジを持つバーまで、個性的なバーが軒を連ねています。

例えば、世界のベスト・バー50(The World 50 Best Bars)に選ばれたバー「アトラス」が象徴としてしばしば語られますが、そのバーの中央には巨大な「ジンタワー」が鎮座しており、シンガポールにおいてジンは非常に需要な立ち位置にあるスピリッツです。

そしてカクテルに詳しい方であれば、ラッフルズ・ホテルで1915年に考案された「シンガポール・スリング」というカクテルが時代を超えて愛されているのはご存知かと思います。

そんなジンと深い繋がりがあるイメージのあるシンガポールにおいて、初の自国生産としてのジンが、今回ご紹介する「タングリン・ジン」です。

タングリン・ジンの特徴

シンガポール初のクラフト蒸留所

バーカルチャーが盛んであるにも関わらず、シンガポールには近年までクラフトスピリッツのメーカーが存在していませんでした。

そんな状況下、シンガポール在住のイギリス人、オーストラリア人2名、オランダ人が「アトラス」でお酒を飲んで語らっている時に、シンガポールにクラフトスピリッツの蒸留所がないことに気づきました。

なぜ、世界最大のジンバーがあり、シンガポールスリング発祥の地でジンがつくられていないのか?」疑問を感じた4人は自分達で蒸留所を立ち上げようと決心しました。

しかし、国内では前例のない蒸留所建設。お酒製造のライセンス取得などは困難を極め、様々な問題をクリアしてようやく、シンガポールの中心にほど近いデンプシーヒルの麓に蒸留所が完成しました。

そして2018年には、初の国内生産のジンである「タングリン・ジン」をリリースして、一躍シンガポールのクラフトスピリッツの中心となった訳ですね。シンガポール初のクラフト蒸留所となったタングリン蒸留所ですが、彼らが契機となり、現在では3箇所の蒸留所がシンガポール国内に建設されたとのことです。

アジアのボタニカル

タングリン・ジンの1番の魅力は、何と言ってもアジア地域のボタニカル由来によるエキゾチックな風味でしょう。メインで使用されるボタニカルはヨーロッパ産のものですが、個性的な風味を持つボタニカルはアジア各地から集められています。

アジア産の素材として、インド、インドネシア、マレーシア産のボタニカルが用いられており、西洋の伝統的と東洋のオリエンタル感が交差した、アジアの交易の中心であるシンガポールらしい仕上がりとなっています。

名前とラベルデザインの由来

英語の単語ではない「タングリン」という単語。一体どういう意味でしょうか。

それは現地の地名の中国語である「twa tang leng」という言葉に由来しています。現在、蒸留所があるデンプシーヒルは、ジャングルが生い茂っている地域で恐ろしい虎が生息しており、1日に1人の人間が襲われていたという言い伝えがあります。

ラベルに描かれている虎は、その伝説から着想を得て描かれています。

ブランドのデザインを担当しているのは、世界的なデザインのエージェンシーである「Landor」。そして、シンガポールのデザイナー集団である「Tell Your Children」によってラベルのデザインがされています。「Tell Your Children」はシンガポールではナイキやスターバックスのデザインを手掛けてこともある程、現地では有名なデザイナー集団です。

恐ろしい虎の言い伝えもポップでキャッチーに描かれており、アジア的な東洋のデザインと西洋がうまく溶け合って、素晴らしいデザインに仕上がっていますね!

3種類のジン

タングリン蒸留所でつくられているジンの中でもメインとなる3種類のジンをご紹介していきます。

使用されているボタニカルは、ヨーロッパ産のジュニパーベリー、リコリス、コリアンダー、アンジェリカルートに加え、それぞれのボトルに個性豊かなアジア産の素材が使用されています。

TANGLIN ORCHID GIN (タングリン・オーキッド・ジン)

シンガポールの国花である「オーキッド = 蘭」の一種であるバニラがキーボタニカルとして使用されているジン。

そして、マレーシア産のカシア(シナモンの一種)やインドネシアのジャワペッパーなど、エスニックスパイスがスパイシーさを演出しながらも、ヨーロッパ産のクラシカルなボタニカルとの融合により、バランスが取れたジンに仕上げられています。

個性的なボタニカルとして、インドカレー好きにはたまらない素材「アムチュール」が使用されています。青いマンゴーを乾燥させた酸味の強いものですが、ジンにおける一般的なレモン等の柑橘とは違った酸味を楽しむことが出来ます。

TANGLIN SINGAPORE GIN (タングリン・シンガポール・ジン)

シンガポールジンは、オーキッドジンに比べよりスパイシーさが強調されています。

唐辛子のチリシードやヤングジンジャー、カフィアライムリーフなどのボタニカルによるスパイシーさが強調され、エキゾチックな風味がとても個性的です。

そのスパイシーさの対比として、マンダリンオレンジの柑橘風味も存在感が強く、トータル的にトロピカル感を感じられるジンに仕上がっています。

TANGLIN BLACK POWDER GIN (タングリン ブラックパウダー・ジン)

アルコール度数が58%と高く設定されている力強いジンです。

一般的に、度数の高いジンは「ネイビー・ストレングス・ジン」と呼ばれます。かつての英国海軍 = ネイビーが船の船倉に樽でジンを積んでおり、その隣に積んである火薬にジンが浸みても、火薬が湿気らずに火が付く度数が57-58%以上だった、ということがその名の由来とされています。

火薬は古代中国で最初に発見されたという説が有力ですが、ヨーロッパに伝来した際に「ブラックパウダー」と呼ばれたことにちなんで、このジンは「ブラックパウダー・ジン」と名付けられています。

ボタニカルは「オーキッド・ジン」と同じものが用いられていますが、アルコール度数が高いことによりオリエンタルなスパイシー感がグッと強まり、火薬の様に火が付くようなパンチの強い風味が特徴的です。

50以上の受賞歴

タングリン・ジンは、3種類とも世界的なお酒の品評会において多くの受賞歴があり、その数はトータルで50以上に上ります。

「The Gin Guide Awards」や「The Gin Masters Asia」などのジン専門の品評会から、 「The Asian Spirits Master」や世界的なお酒の品評会である「サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション(SFWSC)」まで、輝かしい受賞歴を持ちます。

特にSFWSCでは、3種類とも毎年連続でゴールド以上を受賞。ブラックパウダー・ジンにおいては4年連続でダブルゴールドを受賞しており、3年連続でダブルゴールドを獲得したスピリッツにのみ授与される「プラチナ」を受賞しています。

世界でも数少ない偉業を成し遂げたジンとして、世界中に知られることとなりました。

アジアから生まれたジンが世界的に認められたということも含め、アジアのスピリッツシーンの成長から目が離せない時代になってきたと言えるでしょう!

最後に

シンガポール初のクラフトジン、『タングリン・ジン』の解説、いかがでしょうか。

アジアとヨーロッパの交易の拠点であり、現在でもアジアのハブとして栄えているシンガポールならでは。東洋と西洋が交わる感覚を感じられるジンと言えるでしょう。

日本はもちろん、シンガポール、タイ、カンボジア、ベトナム、台湾など、近年アジア各国から素晴らしいスピリッツが登場し始めてきています。

ぜひこの機会に、アジアのスピリッツにも目を向けてみてはいかがでしょうか!

参考リンク

タングリン・ジン日本公式サイト:Tanglin Gin Japan
タングリン・ジンシンガポール  公式サイト:Tanglin Gin
3mk.Singapore : Drinking laws in Singapore (March 2023)
nomoooo : 名門ホテルで生まれたカクテル!シンガポールスリングを徹底解説【レシピあり】
FINANCIAL TIMES : HY SINGAPORE IS THE COCKTAIL CAPITAL OF ASIA

画像提供:TANGLIN GIN 日本正規輸入代理店 : 有限会社エス・シー・ティー