「ご存知スコットランド出身のUMA(Undoubtedly Magnificent Animal)。吉祥寺 The Wigtown に時折現れる。趣味は蒸溜所巡り。先日スコットランドで50年ぶりに行われた「ネッシー大捜索!」のニュースで報じられた「ネッシーの経済効果は年間76億円」という報道を見て、なんか増長している」
スコットランド出身のネッシーさんが、その光るまなこで隆盛極まる日本国内のクラフトジン蒸溜所を視察に伺うシリーズ。
第5弾となる今回は「BRONCO 20」を製造している横浜ジン蒸溜所へ突撃です。
2020年、クラフトビールメーカーである横浜ベイブルーイングによって設立されたこちらの蒸溜所。横浜、日の出町駅から徒歩3分。川沿いの飲食店が並ぶ京急線の高架下に現れるイカした空間です。
こちらでは蒸溜所と同じ空間にバーが併設されており、実際に蒸溜設備を眺めながら、その場所で造られているジンを試すことができます。
バーでは定番の「BRONCO 20」を始め、横浜ベイブルーイングのビール、そしてこの場所でしか飲むことのできない、製品化前のプロトタイプのジンを数種類楽しむことができます。
今回ご案内いただいたのは製造担当の峰尾さん。元々はパン職人をされていた方で、ビール造りをしようと横浜ベイブルーイングの面接を受けたところ、なんでも会社がジン製造も始めるっていうんで、ジンもめっちゃ興味あるしなんなら好き、というわけで気付けば現在は一人でジン製造を担当しているということでした。人生って何が起こるか分かりませんね。
峰尾さんはこちらで製造も担当しながら、併設のバーの切り盛りも全てお一人で行なっているということで、ジン製造を行いながら接客をする日なんかもあるんだそう。「ボタニカル投入のタイミングでは、バーのお客さんにお待ちいただいてジン製造の方を優先することもあります」と、ワンオペの苦労を笑ってお話しされておりました。ワンオペで店舗回してるとどうしたってそうなるよね、みたいな妙な親近感を抱きながら、製造所の案内をしていただきます。
ポットスチルはドイツのジーマン社の中国支社製。300リッターというサイズですがフルフルに張り込むことはあまりせず、大体一回の蒸溜で500mlボトル200本分くらいの仕込みになるそうです。
こちらの造りでもっとも特徴的なのは、なんといってもそのベーススピリッツ。
本業ビール屋の武器を生かし、ベースとなるアルコールを一から造り出しております。
元々は自社ビールを蒸溜してベーススピリッツを製造しておりましたが、現在はジン専用に8%ほどのエールビールのような発酵アルコール(ホップ抜きのビール)を製造し、それを蒸溜することでベーススピリッツを製造しております。
余談ですが、このベーススピリッツの変更が行われた際にボトルデザインの変更も行われたということで、以前の紫ベースのラベルと現在のオレンジ系統のラベルの商品にはそんな違いがあったんですね。飲み比べてみるのも面白いかもですね。
定番のBRONCO 20で使用するボタニカルは全部で20種類。最近のクラフトジンの中でも多い方だと思いますね。それらのボタニカルをそれぞれの方法で香味を引き出していきます。
ヴェイパーインフュージョンに回すのは、オレンジ、柚子、ローズマリー、ヒバ、ラベンダー、そしてカフィアライムリーフの6種類。コンデンサーの隣にある背の低いシルバーの円柱がボタニカルチャンバーで、この中にボタニカルを投入して気化したベースがそこを通過することで、スピリッツに香りがついていきます。
「製造には大量にボタニカルを投入するのだけれど、あまり入れすぎるとチャンバーの中で気体が液化してしまって無駄が出てしまう。バランスが難しいところ」と笑っておりました。なるほど、そんなご苦労もあるんですね。
20種類のボタニカルの中で唯一単体で蒸溜するのが文旦で、これはフレッシュを使用するとのこと。旬のうちに文旦スピリッツを年間生産量分仕込んでおき、製造のタイミングでブレンドしてジンに仕上げているということです。年間を通した製造計画を立てるのが難しそうですね。
またボタニカルの扱いで特徴的だなと感じたのは、再蒸溜のタイミングではほとんど浸漬をかけないということ。多くの蒸溜所では、ベーススピリッツの中にボタニカルを一定時間漬け込みそれから再蒸溜を行うのですが、こちらではベーススピリッツを張り込んだスチルの中にそのままボタニカルを放り込むと、浸漬時間を取らずにそのまま蒸溜を開始するとのことでした。完成品のBRONCO 20はとっても豊かな香りが特徴なので、しっかり浸漬かけるものだと思っておりましたが、びっくりですね。それであんなに香りがつくんですね。
再蒸溜の際にカットされたヘッドとテールは次回以降のジン製造に回されることはなくアブサンの製造に回す、とおっしゃっていたのも印象に残りましたね。その理由を「定番商品の品質安定のため、極力イレギュラーな要素は排除したい」と。ベースアルコールから製造するメーカーならではの一貫した製造工程は、安定した品質での商品造りという点から見ても有利ですよね。
再蒸溜とブレンドを経た商品はタンクで3週間ほど静置して、オリを取り除いてからボトリング。ここでも品質安定へのこだわりが強く見られますね。「ボトリングしたタイミングと出荷したタイミング、お客さんが飲むまでの間で品質が変わるような商品は造りたくない」とおっしゃっており、ビールのような醸造酒に比べて品質が変化しにくい蒸留酒であるジンでも、しっかりと品質を管理しようという姿勢を感じました。
製造から出荷までの期間が数週間程度と、短く済ませることもできるクラフトジン製造において、こちらの蒸溜所ではベース造りまで含めて4ヶ月ほどはかかるとのこと。ベースから製造するのは時間も手間もかかって大変ですが、自社ブランドの品質安定という意味では大きな武器になるものですね。
お話を通じて何度となく「安定した品質のものを届けたい」とおっしゃていたのが印象的でした。また、ただ品質の安定や現状維持を求めるのではなく、蒸溜技術や品質の向上にも意欲的に取り組んでいる印象を受けました。
併設のバーで飲めるプロトタイプの数々は「安定した」「高品質」の商品を「積極的に」「継続的に」生み出していこうという姿勢の表れでしょう。
日々進化が目覚ましいクラフトジンというフィールドにおいて、常にベストな商品をベストな状態でお届けしたいという強い想いを感じましたね。
蒸溜所のあるエリアはクラフトビールを提供するお店も多く、海外の方も多いエリア。ディープな飲屋街までもすぐそこというロケーションで、様々なカルチャーが入り混じる場所です。
そんな空気をたっぷりと堪能し、綺麗な蒸溜機を眺めながら実際に製造を行っているディスティラーの方の話を聞きながら味わうジントニックは、きっと特別な味わいがすることでしょう。
今後はウイスキー製造に向けた新しい蒸溜所を立ち上げる計画もあるという横浜ベイブルーイング。
挑戦と品質への飽くなき向上心を感じることができる横浜ジン蒸溜所へ、ぜひ一度訪れてみてくださいませ!二日酔いには中華街で粥でも食べればいいよ!
〒231-0066 神奈川県横浜市中区日ノ出町1丁目103−1
「ご存知スコットランド出身のUMA(Undoubtedly Magnificent Animal)。吉祥寺 The Wigtown に時折現れる。趣味は蒸溜所巡り。先日スコットランドで50年ぶりに行われた「ネッシー大捜索!」のニュースで報じられた「ネッシーの経済効果は年間76億円」という報道を見て、なんか増長している」
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