Distillery Water Dragon 【ネッシーさんの!突撃!隣の!クラフトジン製造所!vol.006】

ゲストライター
ネッシーさん

ご存知スコットランド出身のUMA(Undoubtedly Magnificent Animal)。吉祥寺 The Wigtown に時折現れる。趣味は蒸溜所巡り。最近は仲間のネッシーたちとネスメタルアイドルユニット「スリーネッシーズ」を結成。デビューシングル『The Shadow Over Loch Ness』近日配信予定

スコットランド出身のネッシーさんが47都道府県制覇を目指して各地のクラフトジン製造所をめぐるシリーズ。
第6弾となる今回は、静岡県三島に2023年の8月末にグランドオープンしたばかりの蒸留所、Distillery Water Dragon に突撃です。

三島大社
三島大社にもお参りしたよ

三島駅南口からてくてく歩いて20分ほど。三島大社の正面大鳥居からはわずか100mにも満たない距離に、その蒸留所はあります。

三島のウォータードラゴン蒸溜所
蒸留所っぽくない外見だぞ
ブラウン管テレビ?
ブラウン管テレビが大量に。。なぜ。。?

こちらの蒸留所は一般見学も受け付けており、定休日以外でしたら予約フォームからの申し込みで誰でも見学が可能です。
ネッシーさんも今回は一般見学できっちり予約をしてから突撃しております。突撃にも手順が必要だね。えらいね。

三島蒸溜所のBAR
バーへの入り口はこちら。青ランプが点灯している時は営業中
WATER GATEのネオン管
路地を奥まで進むと「WATER GATE」のネオン管が
スタンディングバー
スタンディングのバーへと進みます

ツアーの時間になり、ガイド担当のスタッフさんにご挨拶をしてツアーがスタートです。今回は一般見学のツアーだったのですが、幸運なことにこの回のツアー客は私一人のみのプライベートツアー。プライベートツアーだと、気になったことを気になったタイミングで質問することができるので嬉しいですね。

まずはバーで会社の概要案内からスタート。
こちらの会社。「Whiskey & Co. 」という社名からも分かる通り、ジンだけではなくウイスキーも製造しており、しかもそれは「Whisky」ではなく「Whiskey」

つまりはバーボンスタイルのウイスキー製造を行なっております。これほどの小規模でバーボンスタイル/グレーン ウイスキーの製造を行なっている蒸留所は国内では例がなく、しかもそれがこんな街中にあるというのが驚きですね。
建物は築100年に迫る洋品店をリノベーションしたもの。そう言われるとバーに備え付けられている引き出しなんかも、大変可愛らしく、当時の名残を感じさせますね。

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かわいい

お話はまず三島という街の話へ。
三島は富士山と箱根両方からの伏流水が流れ込むエリア。いくつもの清流が街中に線を描き、良質の豊富な湧水も手に入るエリアです。
街の名前を蒸留所名にするところが多い中、こちらの「Distillery Water Dragon」という一風変わった名称も、街中を流れる川の流れを龍に見立てて名付けたということです。なんでも風水的には「水龍」というのは様々な交流を育み富の象徴となる存在らしく、この三島の地に新たな価値観を創出できるような存在になりたいという願いが込められております。水龍。ネッシーさんみたいなものですかね。

お酒造りに必要な良質な水源があったという理由はもとより、三島市は全国でも珍しい「焼酎特区」に選ばれていた、というのも蒸留所のロケーションを決定する一因になったと。「焼酎特区」に選ばれているおかげで、三島では焼酎の年間最低生産基準を下回る量でも焼酎の生産を行うことができます。街や行政と協力しながら、こちらではジンとウイスキーに加えて、今後は焼酎の生産も予定されているとのこと。スケジュール管理が大変そうですね。全体の生産量としては、ウイスキーの生産量が一番多く90%弱。ジンが10%弱で、焼酎は総生産量の2%以下だということです。ウイスキーや焼酎も造るのだから、ジンに使用するベーススピリッツもそれらを使用するのか気になったので尋ねたら「ジンのベースはそれ専用のものを外から購入している」と。モラセス(糖蜜)ベースのニュートラルスピリッツで、コスト面の理由もあるが、一番の理由は安定した品質のものを使用したいからだと。一からアルコールを造り出せる設備を持っている蒸留所でも、ジン製造に使用するベーススピリッツは外から購入しているメーカーも多いですね。

地域の人々や自治体と協力して新たな価値観を創出していくという姿勢は、ユニークな試みの中にも表れております。
ジンや焼酎はよしとして、樽による熟成を必要とするウイスキーは、どうしても空間的なスペースを必要とするもの。街中の蒸留所だとどうしても熟成庫を建てるスペースが足りなくなってしまうものだけれど、こちらはどうしても三島という街でウイスキー造りの全行程を行いたかった。そこでこちらの蒸留所では、樽を一箇所に集めて熟成するのではなく、街中のあちこちに分散して保管することを考えているそうです。曰く「三島には使われていないスペースというのが結構ある」ということで、それらの土地に分散して樽を保管することでごくわずかでも熟成環境に差が出て、味わいの異なるウイスキーが育まれれば面白いですね。さらには、街の人々の協力で、商店の空きスペースなどにも樽を保管してもらう予定もあると。将来的には、そうした街中の「樽保管箇所マップ」を作成して街歩きに活用したりできれば、人流もできて街の経済にも良い効果をもたらしそうですよね。ウイスキーなんていうのは、樽単位で商品の評価が決まるところがあるわけですから。例えば「呉服屋の田中さんのところの樽がうまい!」とか「薬屋の佐藤さんとこの樽が世界的なコンペで入賞した!」とかなったら、めっちゃ盛り上がりそうですよね。これでしたら、今までウイスキーに興味がなかった地元の方も、ノリノリで協力してくれそうな感じがありますね。新たな価値観を創出するというのはこういうことですかね。
また、こうしてできたウイスキーは原則三島でしか購入できないような商品としてリリースする予定だそう。みんながウイスキー買うために三島へ行って、ついでに三島大社にお参りして、うなぎも食べてすれば、自治体としては大きなメリットですよね。

さらにこちらでは新たな試みとして、トークン発効型のクラウドファウンディングも行っております。
従来のクラウドファウンディングのように単発の支援ではなく、ブロックチェーンを活用したトークンを発効することで、そのトークンの保有者に対して様々なリターンを用意していくというもの。株主優待みたいなもんですね。
リターンには「カスクオーナーになる権利」みたいなものから「ファンミーティング飲み会に参加する権利」みたいなものまで様々。中には実際に製造のお手伝いをすることができたりもするそうで「この間はアメリカから届いた空き樽をトークンホルダーの方と一緒に街中転がしたりしました」と。トークンを保持することで事業に参画している実感が強くなり、継続的にファンになってくれる方も増えそうですね。トークンを発効することで地元の方だけではなく、空間的に距離のある方ともコミュニケーションをとることができますしね。ご興味のある方は是非調べてみてくださいませ。

蒸留所の理念や試みをお伺いしたところで、遂に蒸留所内部へ。
今回はジンよりもちょっとウイスキーの話が中心になっちゃいましたが、しょうがないですね。ネッシーさんもスコッチスタイルのウイスキー蒸留所はいくらでも行っていますが、バーボンスタイルのウイスキー蒸留所というのは初めてなので、ちょっとワクワクしますね。

バーボンスタイルのウイスキー蒸留所
いざ。よく見ると看板に「ムラカミ」って書いてありますね。前の洋品店の名残を残しているところがニクイですね

二階建ての製造棟はとても小さく、めちゃくちゃごちゃごちゃしている。
引きで写真を撮ろうとしてもなかなか難しい空間なのですが、その奥に存在感ありありで鎮座ましましているのがこちら。

ウォータードラゴンスピリッツの蒸留器
どどーん

2,000リッター張り込めるスチルと、天井まで届かんばかりの高いカラムスチル。なんでも、スチルの設計時に建物の天井までの距離を伝えて、その高さで入るギリギリのプレート枚数のスチルを設計してもらったんだそう。

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まじで天井ギリギリだな

スチルのサイズも建物のスペースに収まるぎりぎりのサイズで発注したら、実際に到着したスチルは10cm設計図よりも大きく、それだけで搬入できなくなる可能性もあったそうです。ぎりぎり入ってよかったね。

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水道から流れる三島の美味しい水

こちらでは蒸留所建設の際にまず井戸を掘ったと。
前述の通り三島は大変水の豊かなエリア。こちらでも40mほど掘ったところで湧水に当たり、製造にはこの井戸水を使用しているということです。案内を受けながら水を飲ませてもらいましたが、大変飲み口の柔らかい軟水で美味しかったですね。

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ウイスキーの原料はトウモロコシ(メイズ)、ライ麦、そして大麦麦芽

バーボンスタイルのウイスキーでは、複数の穀物をどのような割合で配合するかが味わいに大きく影響します。この配合比率のことをマッシュビルというのですが、こちらでは「トウモロコシ67%:ライ麦20%:大麦麦芽13%」を基本に仕込みによって変わることもあるのだそう。

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マッシュタン

ステンレスのマッシュタンは地元三島の三丸機械工業製造によるもの。ここでも地元企業と協力して製造が行われている様子が見て取れますね。
こちらのクッカーは圧をかけながら煮ることができるということで、要は圧力鍋ですね。原料を放り込みぐるぐる掻き混ぜながらお湯と合わせて糖化していきます。
糖化してポタージュのようになった状態で発酵槽へ送り、そのままイーストを加えて発酵へ。

驚いたのはこの発酵タンクの中身。
通常モルトウイスキーを製造する場合、糖化槽で麦汁を搾り取ったら、絞りカス(ドラフ)は取り除いてから麦汁のみを発酵槽へと送るわけなんですが、こちらではどろどろのポタージュ状のまま発酵槽へと送り、イーストを投入。そのまま一週間発酵して取り出した10%ほどのもろみを、スチルへ投入して蒸留工程へ移るということでした。スコッチスタイルのモルトウイスキーと比べると、発酵時間も断然長いですね。

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かっこいいスチル
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タンクもたくさん並んでいる

スチルは2,000リッターまで張り込めるサイズ。クラフト規模では大容量と言えるかもしれませんね。
取り出せる蒸留液はワンバッチ仕込み、62.5%換算で約300リッターほどとのことでしたので、だいぶミドルカットを狭く取っているという印象ですね。それだけ蒸留液の一番いいところを取り出しているということですね。

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2階から見下ろしてもかっこいいスチル
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交換用のラインアームも保管されていました
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天井にはかっこい水龍のペインティングが

こちらの天井に描かれている水龍。
ファサードにも一体の水龍が描かれており、こちらの蒸留所内には二体の水龍が描かれています。なんでもここから二体の水龍の物語も始まるということで、ちょっと何を言っているのか分からないですけれど、なんとなく楽しみですね。

彼らの新作ジン「Water Dragon Spirits」のラベルデザインには「Once upon a time, 」からスタートする物語の導入部も描かれております。果たして人と地域とを結ぶ物語に二体の水龍がどのように絡んでくるのか。乞うご期待ですね。

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最後はバーに戻って試飲です

2種類のジン(「On Spring」と「Teen Spirits」)ウイスキーのムーンシャインも。
試飲をしていたら、地元の常連さんと思しきお客さんが入ってきて、スタッフさんとワイワイおしゃべりしながらジンを楽しんでいたりしておりました。地元密着な感じがありありでよかったですね。こちらはバーだけの利用もできるということですので、三島にお越しの際はぜひ立ち寄ってみてくださいませ。
神聖なムードと清流の流れる土地。あくまでその場所を大切にしながら、新しい試みで空間的に縛られないファンを獲得しようとするその姿勢はとても新鮮でした。
日本初の “クラフトバーボンスタイルウイスキー” を目指す同蒸留所のこれからが楽しみです。ぜひみなさまも、一度三島にお越しになって、神社にお参りして、うなぎを食べて、美味しいジンを飲んで、素敵なひと時をお過ごしくださいませ。

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うなぎを食べている間、なぜかネッシーさんは不服そうでした
Distillery Water Dragon

〒411-0853 静岡県三島市大社町18−5 Whiskey&Co.株式会社

ゲストライター
ネッシーさん

ご存知スコットランド出身のUMA(Undoubtedly Magnificent Animal)。吉祥寺 The Wigtown に時折現れる。趣味は蒸溜所巡り。最近は仲間のネッシーたちとネスメタルアイドルユニット「スリーネッシーズ」を結成。デビューシングル『The Shadow Over Loch Ness』近日配信予定

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