近年、ジンを製造する蒸留所は日本中各地で大幅に増えてきており、それは東京のような都市部でも例外ではありません。一昔前までは、蒸留酒のお酒造りは地方で行われていたというイメージをお持ちの方も多いと思いますが、現在ではその印象も随分と変わってきました。
都市部にある蒸留所は「都市型蒸留所」と呼ばれ、実は、全国的に見ても東京都にジン蒸留所が一番多く存在しています。そのことは、クラフト蒸留酒が人々にとってとても身近な存在になりつつあるということの証と言えるのではないでしょうか。
今回は、高級住宅街というイメージの東京・田園調布にある「Blue Rabbit Distillery(ブルーラビット蒸溜所)」という蒸留所をご紹介させてください。
都市型蒸留所ということ意外にも特筆すべき点があります。この蒸留所で造られる蒸留酒のテーマが
「Quality Craft Spirit Made in Japan by a Scotsman = スコットランド人による日本製の高品質クラフトスピリッツ」
であり、スコットランド人によって造られているということです。
蒸留所のオーナーであり蒸留士でもあるMark Lawrence Smyth(マーク・ローレンス・スミス)さんに詳しくお話を聞いてきました。
蒸留所建設までのいきさつ
こんにちは。今回はブルーラビット蒸留所について色々と教えてください。
まず、この田園調布という街にどのようにして蒸留所が出来上がったのかを教えてください。
蒸留所を作ろうと思って場所を探していたのですが、ここは以前よく車で通っていて知っている場所で気になっていたので最終的にここに決めました。蒸留所になる以前は10年間薬局だった場所で、その後、おそらく8か月間はケアホームの管理事務所でした。
それで物件が空いているタイミングになって、そこを借りて蒸留所を作り始めたのが 二年半前です。
なるほど、蒸留所もラボのような雰囲気なので、薬局だったということも研究室っぽい雰囲気とマッチしていますね。
では、どのような経歴を持ってこのようなお酒づくりで独立されたのでしょうか?以前もお酒業界に関わっていたのでしょうか?
若い頃はワイン業界にいて、ボルドーに住んでいたことなんかもあります。
日本に来てからはコンサルタントとして17年間働いていました。クライアントには有名な企業なども多く、銀行や金融関係といった業界になりますね。そして多分8年くらい前でしょうか。独立してフリーランスのコンサルタントになりました。
全然違う業界にいたのですね。そこからなぜ自分の蒸留所を建てて自分のお酒を造るということになったのでしょうか?
コロナになって物理的な面談など出来なくなり、契約も途中で終了したりと色々と大変になってきました。その時にこのビジネスを辞めるタイミングが来たかなと思って決心して、アルコールのビジネスに方向転換をしたんです。
自分の蒸留所建設が忙しくなってくるにつれて、コンサルタントも徐々に少なくして収入も減っていったので、大変クレイジーで愚かなことをしましたね(笑)
それはとてもドキドキしますね(笑)
以前はワイン業界にいたとのことですが、ジンのような蒸留酒はまた造り方も違うので大変そうですね。
そうですね、私は今まで蒸留に携わって来たことはありませんでした。
しかし、コロナ禍になってオンラインで蒸留のコースを実施する所もあり、それらを受講しました。
現在使っている蒸留器 はオランダの「iStill(アイスティル)」というメーカーのものですが、そこが「iStill University」というオンラインコースを設けていて、コロナ禍の一年目にそれを受講して蒸留や蒸留器について学びました。
そして、イギリスのオンラインの蒸留コースも受けて、そこから修了書をもらうことが出来たんです。
コロナは大変でしたが、遠隔で学べたことは非常にタイミングが良かったですね。それと同時に蒸留所の建設も進めていたんですね。
蒸留所を作り始めてからは、小さい規模なので色々と自分でやってみました。ホームセンターに行って木材とガラスとタイルなどを買って来るところから始めています。
すごいですね!DIYで蒸留所を作られているんですね。
蒸留所ができるまでには実際には2年間くらいかかっておいて、お酒造りのライセンスを取得するのにも長い時間がかかって大変でした。
蒸留所の部屋の配置や設備なども、保健所とやり取りをしたり何度も足を運んだりしてとても大変でしたが、最後の検査が入ってライセンスが降りた時にはホッとしました。
私の妻は日本人なので、私と英語でやり取りしながら申請書などを書いてくれて、本当に感謝しかありません。
そして、計画が始まってから2年後くらいでしょうか、2022年の12月に蒸留所にショップをオープンすることが出来ました。まだコロナウイルスの影響はありましたが、人々はお酒を飲み始めるようになっていて、関心を寄せてもらうこともできるようになってきていますね。
なるほど。酒造の免許を取るのはとても大変だと聞きますので、とても苦労されたと思います。それにしても凄い行動力だと思います!
なぜブルーラビット = 青いウサギ?
どの様にして「ブルーラビット」という名前が決まったのでしょうか?青いウサギというのは非常に奇妙に思えますね。
ある日、ウサギが夢の中に出てきたんですよ。しかも青いマティーニを手に持ってね。私は夢について色々考えることがあるんです。
普通はウサギは白いものだと思いますが、青いウサギにしたらどうかと思ったんですね。そこからブルーラビットという名前を付けました。
夢からインスパイアされたんですね。しかし、一言でウサギと言っても、日本人の持つウサギの感覚とは一味違いますね。
私はイギリス人なので、007とジェームス・ボンドが本当に好きなんです。このウサギは彼をモデルにしていて、そして、ジェームズと言えばマティーニなので手にマティーニを持たせています。
それは、面白い着想ですね!
ご自分でデザインまでされているのもすごいですよね。
誰もこんな所に蒸留所があるなんて思わないですね。あるお客さんなんかは、ここでビールを造っているのですか?と聞いてきたりします。目印として色々と作らなければならないと思っています。
他にも、ロゴマークやショップカードなども自分でデザインしています。このウサギのLEDサインも作って飾りました。でも、これを見てペットショップですか?って入ってくる人もいますけどね(笑)
器材も含めて全てがDIY
蒸留器などの器材はどうされたんですか?
それは私が自分で輸入しました。 とてもクレイジーですよね?この「iStil = アイスティル」の蒸留器はオランダ製のものです。ステンレス製でとても使い勝手が良いです。
この蒸留器はオーダーメイドなんですが、蒸留所の規模が小さいのでそれに合わせて一番小さ目のものをオーダーしました。最初に届いた時はバラバラになって木の箱に入れられていて、自分で組み立てまでしましたね。
そしてベースのスピリッツの貯蔵場所を確保するのも難しくて、天井に通してあるホースを通して他の部屋に保存しているスピリッツを運んでいる訳です。ここまで運んでくるにはダイヤフラムポンプというポンプを使っていて、エアーコンプレッサーを使って吸いだしてスピリッツをボイラーの所まで運んでいます。
工事みたいなこともできるんですね!本当になんでも作りますね。
はい、常に寝る前なんかにどうやったら物事が解決するかを考えています。起きると解決策が思いついているような感じですね。
発想力が素晴らしいですね。
ブルーラビットにはジンとウォッカ、ラムのラインアップがあるとおもいますが、全てをこの場所で造っているのでしょうか?
はい。原料アルコールを他から仕入れて、その後の蒸留はこちらでやっています。
自分で蒸留器を輸入したというのも本当に驚かされますが、素材から器材まで、何でも自分で取り寄せているんですね。
はい、このタンクは中国から輸入しました。瓶詰め機はイタリアからです。そしてポンプはアメリカからですね。本当に国際的だと自分でも思います。
蒸留器がある隣の部屋にはボトルなどが置いてあるのですね。
こちらはとても小さな部屋なんですが、滅菌室になっています。蒸留器がある部屋と滅菌室は別々にしなければならないということで、こちらにおいています。
ボトルを除菌する機械はイタリアから取り寄せています。そして、この部屋にはボタニカルも保管していて、柑橘のピールや生姜などのボタニカルはこちらのドライヤーで自分で乾燥させて作っています。
ボタニカルは一般的には出来合いのドライのものを取り寄せているイメージですが、乾燥までご自分でやるんですね。手がかかっていますね。
そうなんですね。何でも自分でやってしまいます。
では、今度はこちらの部屋に来てください。
こちらのラボでは、小さい蒸留器を使って実験蒸留をしています。最初から大きな蒸留器で蒸留するわけにはいかないので、小さい蒸留器でテストをしてから本番の蒸留をします。
そして、こちらにはろ過のフィルターもありますね。このフィルターは3重になっていて、最終的にこちらで加水をしてジンだったら43%までアルコール度数を下げます。ここには数種類のアルコール度数を測る装置もありますね。
そして、ボトリングのマシーンやラベルを貼る機械もこちらにあります。
この部屋は、テスト蒸留と製品の仕上げの段階に使われているということになるのですね。
はい、そして完成したスピリッツを保管しておいたりもします。
個性豊かなスピリッツのラインアップ
現在のラインナップは5種類ですね。こちらの蒸留所に来るとテイスティングと購入ができるんですよね。
はい、ECサイトもありますが、こちらで買ってもらうこともできます。テイスティングもできますので、自由に来てくださいね。
Signature Gin(シグネチャー ジン)
このジンのレシピを作るのにも2年かかりました。他の色々なジンのレシピを調べたりして、どれが一番良いかを研究したりしました。
ベースのお酒は国内製造の原料用の焼酎を使っています。これは、度数を高めてとてもクリアにされたものです。
珍しいのは、エリカ(ヘザーの花)ですね。そして竹がボタニカルに入っています。面白いでしょう。私はイギリス人ですが、半分日本人のつもりですので日本のボタニカルを使いたいのです。竹とヒノキ、煎茶や生姜、そしてユズと言った日本のボタニカルが私にとっては非常に興味深く、それらをジンのボタニカルとして使っています。
Premium Blue Gin(プレミアム ブルー ジン)
ブルーラビットジンとは違うボタニカルを使っていて、山椒とラベンダーが特徴的です。
最終的に青い色として製品にしているのですが、どの様に色付けしているか分かりますか?最初に出来上がるスピリッツはクリア。
そこから、バタフライピー(蝶豆)を漬け込んで着色しています。トニックウォーターを注ぐと青色からからピンク色に変わりますね。
Orange & Pink Peppercorn Gin(オレンジ & ピンク ペッパーコーン ジン)
地中海の太陽を思わせる活気に満ちた柑橘類の香りが、スパイスと調和します。
ピリッとした柑橘系のノート、まろやかで甘美なオレンジのトーンが、エレガントで複雑に絡み合いシンフォニーの様な味わいとなります。
Raspberry & Pomegranate Gin(ラズベリー & ザクロ ジン)
熟したラズベリーとほんのり綿菓子の香り。ザクロのアクセントとジャムのような、滑らかで丸みのある味わいがあります。
このジンは、ザクロとラズベリーの両方の香りを際立たせ、舌の上に長く残る青々としたベリーの余韻が最高です。フルーツフレーバーのメドレーが見事に調和しています。
Blackberry & Cinnamon Gin( ブラックベリー & シナモン ジン)
ジュニパー、シナモン、ジンジャー、クラシカルなスパイスと調和のとれた、豊かでフルーティーな香りを贅沢にブレンドしました。
氷、トニック、フルーツを使った鮮やかなカクテルとしても最高です。おすすめは、メデタレニアントニックを注ぎレモンスライスを添えたもの。洗練された味わいとなり、素晴らしい味わいの旅をお約束します。
Yuzu Infused Vodka(ユズ インフューズド ウォッカ)
ジンよりもアルコール度数を高くして90度以上まで蒸留します。そして、白樺の活性炭でろ過しますね。最後にユズの皮を漬け込んでユズ・インフューズド・ウォッカが出来上がります。
こちらは、ウォッカだけれどとても滑らかでシルキーな味わいになりますね。
Spiced Rum(スパイス ラム)
ラムは、糖蜜と黒糖を沖縄から取り寄せて、そして12種類のスパイスを漬け込んで造っています。
まず、タンクの中で沖縄から取り寄せたサトウキビの糖蜜に色々なスパイスを漬け込みます。そしてカナダから取り寄せたイースト菌を入れて10日間くらい発酵させます。そうすると、10%くらいの低アルコールのもろみが出来上がるので、
それから蒸留をします。
最後に熟成のような味を付けるために、オークを6か月間ほど漬け込んで、最終的なラムが出来上がるという訳ですね。
最後に
Blue Rabbit Distillery(ブルーラビット蒸溜所)のご紹介、いかがでしたでしょうか。
東京の都会の中においても、蒸留酒は造られるということを実感できる蒸留所でした。そして、コンサルタントから蒸留士に転身したというマークさんもとても魅力的で、ユーモアのあるお話がとても楽しかったです。DIYで様々なものを作ってしまうという話もとても興味深いですね!
独自の製法で造られるスピリッツの数々もとても魅力的で、テイスティングをさせてもらうこともできます。
関東にお住いの方は近場で気軽に行ける蒸留所として、マークさんのお話を聞きに一度訪れてみてはいかがでしょうか!
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