イタリア・トスカーナ発 「ワイナリー」と「ディスティラリー」の融合。Winestillery(ワインスティラリー)のご紹介

イタリア・トスカーナ州。州都フィレンツェを中心として文化的にも非常に発展しており、美しい田園風景も残る地方です。ワインの銘醸地としても知名度が高く、イタリアを代表するワインの代表的な産地として多くの人がご存知なのではないでしょうか。

そのようなワイン造りの文化が深く根差した土地から、「テロワール」が見事に表現されたクラフトスピリッツが誕生しています。

今回ご紹介する「Winestillery(ワインスティラリー)」は、トスカーナワインの伝統を踏襲するワイナリーの一家により運営されており、ブドウ由来のジンやウォッカ、ヴェルモットなど、最高品質のボトルを世に送り出しています。

この度、日本でも初上陸の製品が紹介されるにあたり、フィレンツェの名門Barである「ラスプーチン」のヘッドバーテンダー「ダニエレ・カンチェッラーラ」氏が日本に招かれ、ワインスティラリーのマスタークラスが開催されました。

開催場所は、著名なバーの世界ランキング「Best Bars 50」の常連であるBar BenFiddich(ベンフィディック)の姉妹店のBar B&F。オーナーバーテンダーの鹿山博康氏とダニエレ氏は友人同士でもあり、ワインスティラリー製のヴェルモットは鹿山氏もその品質の高さを認めており、一押しの銘柄だということです。

今回の記事では、マスタークラスで聞いた話も交えつつ、ワインスティラリーの魅力に迫っていきたいと思います。

トスカーナのテロワールに根差した「Winestillery(ワインスティラリー)」

では、「Winestillery(ワインスティラリー)」の名前の由来からご説明していきます。

まずはお酒に関する一般的な話になりますが、ワインやビールなどは醸造酒、ジンを含むスピリッツは蒸留酒のカテゴリーに分類されます。蒸留酒の一般的な製法として、原料を醸造し、その過程で出来上がった醸造酒を蒸留することによって完成します。

ワインスティラリーは、イタリアのトスカーナ州・フィレンツェからほど近い場所にあるガイオーレ・イン・キャンティ地区に生まれました。同地区は「キャンティ・クラシコ」生産の指定地区の一つで、そのワインは、中部イタリアのトスカーナ州を代表するD.O.C.G. ワイン(イタリアワインの格付け等級の 4段階のうち、最上位の等級)に格付けされており、イタリアンワインの最も重要な銘柄と言えるでしょう。

キャンティ・クラシコは、トスカーナ州を中心として栽培されているブドウの品種「サンジョヴェーゼ」が主体となって造られています。

ワインスティラリーの母体となるのはワイナリー「キオッチョリ・アルタドンナ」。ワイナリー直営のブドウ畑で獲れたブドウ、そしてそこから醸造して造られるワインをもとに「ディスティラリー = 蒸留所」で蒸留作業を経て、ワインスティラリーの製品が完成します。

醸造から蒸留まで一貫して行われているということから、「ワイナリー」と「ディスティラリー(蒸留所)」が一体となった、世界唯一の「Vinstilleria = ワイン蒸留所」として、その名が名付けられました。

一族の絆から生まれた蒸留所

ワイナリー蒸留所は、キャンティ・クラシコを製造するワイナリーの一族によって営まれています。

ブドウ栽培とワイン醸造学を学んだステファノ・キオッチョリ氏によって、ワイナリー「キオッチョリ・アルタドンナ」が創設されました。彼は、イタリア、フランス、ハンガリーの名門ワイナリーに30年以上従事した経験があり、世界的な醸造学者であり農学者としても知られているワインに精通した職人です。

彼の長男であるニッコロ・キオッチョリ・アルタドンナ氏は、父親と同じ大学に進みブドウ栽培とワイン醸造学を学びました。現在では、ワイン製造の責任者としてブドウの生産からワインセラーの管理、瓶詰めまでを彼が担当しています。

そして、ディスティラリー創設を提案したのが、次男でありマスター・ディスティラー(蒸留責任者)のエンリコ・キオッチョリ・アルタドンナ氏。

法律の学校を卒業して弁護士であったこともあるという異色の経歴をもつ彼ですが、若い頃にアメリカに渡ってバーボンの蒸留所で働いた際に蒸留酒の魅力に取りつかれ、イタリアに帰国後もミラノで蒸留学を学び、その後、フランスでワインの醸造学を学びお酒全般に関して幅広い知見を持っています。

弁護士としての歩みを進めた彼ですが蒸留家としての夢を諦めきれず、父親にディスティラーの建設を提言したのがきっかけで、一族の知恵と経験に基づいた綿密な職人的アプローチによる「ワインスティラリー」が誕生しました。

素材の全てがトスカーナ産

ワインスティラリーの製品の最も魅力的な点は、ベースとなるスピリッツやその他のボタニカルなどの素材が全てトスカーナ産であること。「テロワール(土壌性)」に100%のこだわりが込められているということですね。

では、そのこだわりに関して見ていきましょう。

Grape to Glass Manifesto

テロワールに関しては「マニフェスト」が制定されており、厳しく守られています。「Grape to Glass Manifesto 」は、意訳すると「ブドウからグラスまでの公約」の意味。原料の生産からグラスに注がれる製品となるまで、生産哲学が刻み込まれています。

  • 全ての製品はChioccioli Altadonna Family Estateでカスタムメイドのポットスチルを用いて蒸留され、ボトリングされる。
  • ベーススピリッツは原則として葡萄、またはワインを使用する。葡萄あるいはワインを使用しない場合、全ての製造工程においてワインを中心とするワイン製造工程に則る。
  • ボタニカルは全てトスカーナで伝統的に用いられているものを使用。
  • 人工香料、添加物は使わず、製造後の純化も行わない。自然の色、自然の香りだけを大切にする。
  • 全ての製品は、その素材の特性を保全するために、冷蔵はしない。

ベースにブドウを贅沢に使用

ベースとなるお酒についても、ワインの銘醸地であるトスカーナ産のブドウとワインを使用したという贅沢なものです。

ジンに焦点を当ててみると、ブドウ由来のジンは他のヨーロッパ各地に多くの銘柄が存在しますが、ワインスティラリー製のジンには他のブドウベースのジンには当てはまらないこだわりの製法が採用されています。

それは、ベースにワインを使用しているということ。ブドウから出来た醸造酒をそのまま蒸留するということではなく、一度熟成工程を経たワインを造ってからベースとなるスピリッツを精製します。

その後、ジュニパーベリーを始めとするボタニカルを加えて再蒸留がなされますが、そのような贅沢な製法によって、他のジンには無いような深みが与えられることとなります。

トスカーナのボタニカル

トスカーナと聞いてピンとくるジン好きの方もいるかもしれません。トスカーナと言えばジンに必須のボタニカルである「ジュニパーベリー」の一大産地としても有名です。有名ブランド「ボンベイ・サファイア」を始め、トスカーナ産のジュニパーを使用して造られているというジンは枚挙にいとまがありません。

世界中のジン製造者から注目されているトスカーナ産ジュニパーを贅沢に使用しているということや、その他のボタニカルも全てがトスカーナ産であるということは、テロワール性という点については右にでるジンはなかなか無いのではないでしょうか。

ヴェルモットやビターなどの他のハーブリキュールにもその点は共通して言え、テロワール性がとてつもなく高いことの証でもあります。

ワインスティラリーのスピリッツとリキュール

今回のマスタークラスで紹介されたのは5種類のお酒でした。ダニエレ氏の解説と公式ホームページからの引用で各製品をご紹介します。

LONDON DRY GIN (ロンドン・ドライ・ジン)

サンジョベーゼ100%の赤ワインをベースとするスピリッツに、ジュニパーベリーを含む13種類のトスカーナ産のボタニカルを加えポットスチルで再蒸留して造られます。

ドライな口当たりでありながら、ワイン由来の香り高さにより深みも感じさせます。ジンベースの伝統的なカクテルを作るのにも適しており、カクテルを一段階上に引き上げるようなジンですね。

ジンの起源には諸説ありますが、中世11世紀頃のイタリアの修道院において、ワインとジュニパーベリーやその他のボタニカルを蒸留して作る「アクアヴィーテ = 生命の水」がジンの原型だと言われています。

ワインスティラリーのジンは、その起源と同じように、イタリア産のワインとボタニカルの蒸留液からジンを造られており、伝統の重みを感じさせるものですね!

OLD TOM GIN(オールド・トム・ジン)

オールド・トム・ジンはジンのカテゴリーの一種で、ドライジンより甘味がある種類のジンのことを指します。

甘味料で加糖して甘みを加えることが一般的ですが、ワインスティラリーのオールド・トム・ジンには加糖がされてはおらず、リコリス(甘草)で風味付けすることによって甘みを強調させることに成功しています。

そして、サンジョベーゼ100%の赤ワインを熟成させた古樽で樽熟成をするので、琥珀色の美しい色に色付いています。

ワイン樽の風味がジンに溶け込み、リコリスの甘みも感じさせ、まろやかで深みのある風味のジンに仕上げられています。オールド・トム・ジンで樽熟成というブランドはあまり例がなく、そのこだわりから生まれた風味は、他では見られない深みのあるものですね。

TUSCAN VODKA(トスカン・ウォッカ)

ウォッカもベースとなるスピリッツの素材はある程度ですが、ブドウ由来のウォッカということがワインスティラリーならではですね。サンジョベーゼ100%の赤ワインを蒸留したスピリッツをベースとして使用してあります。

そのスピリッツ元に、蒸気をゆっくりと還流させながら再蒸留。ブドウの繊細な風味を残すために、一般的な蒸留後の白樺活性炭でのろ過はされておらず、「Non-chillfiltered(ノンチルフィルタード)」の素晴らしいウォッカに仕上げられています。

TUSCAN VERMOUTH(トスカン・ヴェルモット)

ヴェルモットは、薬草類や果実、甘味料などで風味付けをしたフレーバード・ワインの一種です。一般的に褐色のベルモットは、白ワインをベースとしてカラメルで着色された甘いものを指し、「イタリアンヴェルモット」や「スウィート・ヴェルモット」と呼ばれます。

しかし、ワインスティラリーのベルモットは、サンジョベーゼ赤ワイン100%をベースとしており、ニガヨモギを始めとする19種類のボタニカルで風味付けされ、てんさい糖で甘みが付けられています。つまり、カラメルでの着色はされておらず、褐色の色はワインそのものの色合いを保っているということですね。

ベルモットはワイン製造が盛んな地域で造られますが、ベルモットに使用されるワインにはそれほどのクオリティーが求められていないことが一般的です。

それに対し、ワインスティラリーのベルモットにはサンジョベーゼが贅沢に使われており、非常に香り高く、他のスイートベルモットとは違った深みを感じられます。

TUSCAN DRY VERMOUTH(トスカン・ドライ・ヴェルモット)

「フレンチベルモット」「ドライ・ベルモット」タイプのベルモットです。ドライベルモットは酸味とドライさとが特徴的ですが、ワインスティラリー製のベルモットからは甘みも感じられ、イタリアンベルモットとフレンチベルモットの両方の特徴を備えています。

このヴェルモットも製法へのこだわりが素晴らしく、トスカーナ州で造られている「ヴィンサント」という種類のワインに着想を得ています。

ヴィンサントはブドウを干して酸化させてからワインを造る製法で、ワインスティラリーのドライ・ヴェルモットには、遅積みして糖度を高められた白ブドウと熟したブドウが組み合わされています。

甘みと苦味のバランスが良く、柑橘の風味と若干の塩味が感じられ、まろやかでシルキーな舌触りに仕上げられています。このヴェルモットとロンドン・ドライ・ジンで作るマティーニ「トスカン・マティーニ」は至高の一杯と言えるでしょう。

TUSCAN BITTER(トスカン・ビター)

ビターはイタリアで普及している香草由来のリキュールで、代表的なブランドにカンパリやアペロールなどがあります。

イタリアでは、夕飯前にバールで仲間と集まって「アペリティーボ = 食前酒」を飲み、その後に各々がディナーにという文化があり、イタリアの食文化には欠かせないお酒です。

サンジョベーゼ赤ワイン100%の蒸留液に、キナ樹皮、ルバーブ、ゲンチアナなどのボタニカルを浸漬させて完成し、鮮やかなルビーレッドはボタニカル由来で、人工着色料は一切使用されていません。

シンプルにトニックウォーターを注いでも素晴らしく、ネグローニなどのカクテルを作る際にカンパリではなくこのビターを用いても一味違った味となります。複雑な苦味は、食欲を刺激するのにうってつけですね。

トスカーナのストーリー性が込められたカクテル

マスタークラスを行っているダニエレ氏ですが、このマスタークラスの為に、ワインスティラリーの製品を使ったオリジナルカクテルのレシピを考案・提供して頂きました。全てがトスカーナと紐づけられている素晴らしいものばかりでした。

ロンドン・ドライ・ジンとプロセッコ(スパークリング・ワイン)を中心にグレープフルーツジュースで割り、セージのシロップを垂らした「キャンティのスパークリング・ワイン(キャンティ・スプモーニ)」は、さっぱりとしていて食前酒にぴったりのカクテル。

「トスカーナのセレナーデ」は、ロンドン・ドライ・ジンとドライ・ヴェルモット、そこにローズマリーとサフランのシロップを垂らし、トスカン・ビターのフォームで覆われています。通常のネグローニに比べ、ハーブの香りの高さを存分に感じられる一杯です。

他にもオリジナルのカクテルを作っていただきましたが、どのグラスにもダニエレ氏の創造性と哲学が反映されていました。

地中海を感じさせるようなハーバルな感覚も素晴らしく、イタリアの文化と切っても切り離せない食とお酒の繋がりの強さを感じさせ、トスカーナやイタリアへの情景を感じさせる素晴らしい出来でした!

是非試してもらいたい一杯! トスカン・ネグローニ

そして、ダニエレ氏のオリジナルカクテルには、ダニエレ氏も推奨する「トスカン・ネグローニ」。

ジンベースのショートカクテルとして真っ先に思いつくものといえば、マティーニ、ホワイトレディなどがありますが、近年、「ネグローニ」も大きな注目を浴びてきています。ネグローニは、ジンとカンパリ(もしくは他のハーブリキュール)、ベルモットを合わせるのが一般的なレシピです。

ネグローニ誕生の瞬間は1919年まで遡り、フィレンツェの老舗リストランテ「カゾーニ」で、カミーロ・ネグローニ伯爵がオリジナルのオーダーをしたのが始まりとされています。元々「ミラノ・トリノ」というカクテルがあり、ネグローニ伯爵がそこにジンを足してほしいと要望したものが、後のネグローニと呼ばれるカクテルの原型です。

そして、今回ダニエレさんが提供してくれたのがこの「トスカン・ネグローニ」。ワインスティラリー製のロンドンドライジン、トスカンヴェルモット、トスカンビターを合わせて作られるネグローニはトスカーナの伝統を感じさせ、今まで体験してきたネグローニとは全く別物でした。

濃厚でありながら、甘ったるくはなく後味は爽やか。余りにも贅沢な味わいに時間を忘れてしまいました!

ぜひワインスティラリーのボトルを見かけることがあれば、試してみてほしい一杯です!

最後に

トスカーナ州の風土を存分に感じさせるワインスティラリーのお酒のご紹介、いかがでしょうか。

ブドウ作りから醸造・蒸留まで一貫して行っているので、全てのボトルに一家の思いがぎっしりと詰まっています。キャンティクラシコの豊穣さ、トスカーナのテロワール性が存分に表現されており、口に含んだ瞬間、トスカーナのブドウ畑の風景が心に浮かんでくるようですね!

気になる方は輸入代理店・リクオレリアの公式ホームページをチェック!!