「ご存知スコットランド出身のUMA(Undoubtedly Magnificent Animal)。吉祥寺The Wigtownに時折現れる。趣味は蒸溜所巡り。4月に控えたスコットランドへの帰省に備え、お土産用にネッシー饅頭を製作中」
スコットランド出身のネッシーさんが、その麗らかな目線で隆盛極まる国産クラフトジンの製造所を視察して回るシリーズ。
第7弾となる今回は、2020年に静岡沼津にオープン、「LAZY MASTER」ブランドを世に送り出している沼津蒸留所に突撃です。
沼津駅からてくてく歩いて10分ほど。
市内を流れる狩野川沿いに現れるイカしたカフェに併設された蒸留所です。
併設のカフェ「THE CHAMBER」では、市内の様々な飲食屋さんが曜日変わりで出展されており、曜日によって丼物からカレー、キューバンサンドに沖縄そばなんて、バラエティ豊かなランチを楽しむことができます。
曜日によっては朝7時からのモーニング営業をしている日もあり、晴れた日にテラス席で川のきらめきを眺めながらモーニングなんていうのも素敵ですね。
この日も朗らかに晴れ渡り大変気持ちの良いお天気。ゆっくりコーヒーでも飲みながら陽だまりでぬくもりたいな、など思いながらも、蒸留所へ突撃です。
今回蒸留所を案内していただくのは創業者の一人で、製造も担当されている永田さん。ご挨拶をして早速見学させていただきます。
まずお話はベースとなるスピリッツについて。
数ある国産クラフトジン蒸留所の中でもこちらがユニークなのは、ベースに沼津市にあるクラフトビールメーカー「Repubrew」が製造した醸造アルコールを使用しているという点。
ビールと同じ麦原料のベースアルコールを、こちらの沼津蒸留所の設備を使用して蒸留。ベースとなるスピリッツが出来上がったら、そこにボタニカルを加えて再び蒸留して、商品となるクラフトジンを製造しております。
ビールとジンというジャンルの垣根を超えたクラフトメーカー同士が手を取り合って、沼津を盛り上げようとしているのが伝わってきますね。現在では、こちらのビールスピリッツに加えて、一部サトウキビ由来のベーススピリッツも使用しているということです。
またこちらの蒸留所では近隣の飲食店で出てしまった賞味期限切れのビールを蒸留して、スピリッツとして生まれ変わらせる試みも一部行なっているとのこと。もともとビールベースの醸造アルコールを製造している蒸留所だけに、こうした試みはお手の物ですね。
そんなユニークなベースアルコールを蒸留するためのスチルもまた特徴的です。
通常、ジンやウイスキーの蒸留所では銅製のスチルが使われることが多いのですが、こちらではステンレス製のスチルが使用されております。
銅製のスチルを使用することのメリットとして「銅の吸着効果による硫黄化合物の除去」が挙げられます。
発酵の段階で発生する硫黄化合物にはふくよかで強い香味が含まれるため、多くの蒸留所ではそれを取り除くために銅製のスチルを使用するか、或いはすでにクリーンになったニュートラルスピリッツを使用します。
こちらのようにベーススピリッツから自前で仕込み、かつステンレスのスチルで蒸留を行なっている蒸留所はまれで、ボタニカルによる個性ではなくペーススピリッツの個性がとてもユニークな蒸留所だということですね。
とは言え、ネッシーさんは元々スコットランドのウイスキー蒸溜所巡りが趣味だった経歴の持ち主。スコッチモルトウイスキーの蒸溜所でステンレンス製のスチルを使用しているところは一部の実験的な蒸溜所を除きほぼなく、やはり銅の役割というものは大きいのではないかと感じてしまうのですが、その旨お尋ねすると見せてくれたのがこちら。
こちらの銅たわしをスチルのネックの中に投入。銅たわしの層を気化したアルコールが通過することにより、適度に硫黄化合物を取り除かれ、求めるベーススピリッツが生み出されるというわけですね。すごい。たわしすごい。
設置されたたわしのビフォーアフターを見るとその効果は一目瞭然。
昔、温泉に10円玉放り込むと真っ黒になるっていう実験がありましたが、つまりはそれですね。他にはないやり方で、独特のベーススピリッツを造りだしております。
こうして製造したベーススピリッツに、地元産を中心としたボタニカルを浸漬。
再蒸留の際もボタニカルは漬け込んだ状態のまま加熱するそうです。
使用されるボタニカルはフレッシュよりも、ドライや冷凍のものが多いとのこと。
フレッシュを使用すると品質や製造ペースを安定させることが難しく、通年安定した仕込みを行うことを目標にしているとのことでした。
また、フルーツを使用する際は加熱によって香りの壊れやすい果肉部分よりも、果皮の部分を主に使用するとのことでした。この辺りも、蒸留器の特性を捉えた上での判断で、試行錯誤のあとが伺えます。
蒸留の際にはヘッドとテールをカットして真ん中の部分だけを取り出し、それをタンクに貯めて、二週間程度は静置させてからボトリング。
カットしたヘッドとテールは次回の製造に回して再利用されます。
ボタニカルの仕込みは大体週に一回程度。ワンバッチの仕込みでボトル300-350本分ほどになるとのことです。
現在「LAZY MASTER」ブランドでリリースされている商品は全部で7種類。
それぞれが地元の農家さんが手がけたフルーツやハーブをキーボタニカルとしており、中には傷んでしまって出荷できないものや、余剰農作物などを使用している商品もあります。
食品ロスにも対応しつつ、地元産農作物の魅力をジンという新しいメディアを通じて発信する素晴らしい試みですね。静岡といえばお茶くらいのイメージしかなかったですが、ジンがその地域をより深く知るきっかけになるなんていうのは素敵なことですね。
お話を伺う中で、彼らが造っているものは「クラフトジン」というモノだけではなく、街やコミュニティ、価値観やライフスタイルといった場所との「出会い」であると感じました。
地元産原材料を使用したクラフトジンを製造する隣には、それを楽しむことのできるカフェが併設されている。
そのカフェでは日替わりで様々な市内のお店が出店し、交流の場となっている。
フードトラックならぬバートラックを運営し、様々なイベントに出張して空間造りの一画を担う。
それらの中心に彼らの手がける「LAZY MASTER」があり、クラフトジンを片手に地域やコミュニティが広がっていくというのは、とても素敵なビジョンのように感じました。
みなさまもどうぞ沼津にお越しの際は、川沿いのナイスロケーションでジントニックを飲みながら、周囲のおすすめスポットを聞いてみてくださいませ。
きっと他では聞けない街の魅力をたくさん教えてくれるでしょう!
〒410-0802 静岡県沼津市上土町 8 右
「ご存知スコットランド出身のUMA(Undoubtedly Magnificent Animal)。吉祥寺The Wigtownに時折現れる。趣味は蒸溜所巡り。4月に控えたスコットランドへの帰省に備え、お土産用にネッシー饅頭を製作中」
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