アフリカ大陸の風土と哲学を感じられるジン 「プロセラジン」のご紹介

「ジン」というお酒は、オランダやイギリスといったヨーロッパが発祥の地とされていますが、近年はクラフトジンブームが世界中に波及していて、日々世界のどこかで新たなジンがリリースされています。

今や、ヨーロッパやアメリカなどのジン製造が盛んな地域のみならず、アジアや南アメリカなど、ジンづくりの土壌が育ってなかった地域からも新しいジンが次々と産み出されています。

そんな中、アフリカ大陸で生み出されたジンが日本国内で発売となりました。

そのジンは『プロセラジン』と名付けられ、ケニアで初めての国内初のクラフトジン蒸留所である「Nairobi Distillers」によってつくられています。Nairobi Distillers設立を皮切りに、ケニア国内でもジンの蒸留所が新たに5箇所設立されたとのことで、これからアフリカの各地域でもジンづくりが盛んになってくることは間違いありません。

今回の記事では、アフリカという地域性、そして赤道直下の国であるケニアという特性によって産みだされたジン「プロセラジン」をご紹介します。

「プロセラジン」が日本へ来るまで

写真   手前:Bar Hisaka・小倉さん 左:Nairobi Distillers 共同創設者・ガイさん 中央:Bar Benfiddich・鹿山さん 右:Nairobi Distillers 共同創設者・アランさん

実はこの「プロセラジン」、様々なストーリーが偶然に折り重なって、ここ日本での発売へと至りました。

一番最初に、東京の有名なジン専門バー・Bar Hisakaのオーナー・小倉さんが、日本で初めてプロセラジンを海外から取り寄せました。

Barhisakaさんのroom128の記事はこちら→クラフトジンをもっと身近に。 『room128』のご紹介

そしてそのジンを気に入った小倉さんが、世界的に有名なBar BenFiddichの鹿山さんにプロセラジンを紹介。

Bar BenFiddichの2号店であるBar B&Fの高梨さんと鹿山さんが、偶然にもケニアでのゲストバーテンディングの機会があり、その流れでNairobi Distillersへも訪れました。そこでジュニパーベリーの採取体験や蒸留所の見学などをされてきたといいます。

日本に帰ったお二人がSudoWork合同会社さんに話をされ、輸入に向けて動いたという流れです。全てのピースがかっちりとはまった結果、地球の反対側であるアフリカ大陸のジンが日本に紹介されたということで、とても運命的な出会いを感じます!

この度、Nairobi Distillersの共同代表であるガイさんとアランさんが来日され、11月9日と10日 にプロセラジンの試飲会が開かれました。試飲会では、お二人と鹿山さんによってプロセラジンの魅力が存分に伝えられ、私たちジンラボ編集部もとても楽しい時間を過ごさせてもらいました。

ではその「プロセラジン」の魅力についてご紹介していきます。

『Procera Gin(プロセラジン)』名前の由来

プロセラジンについてお話をする前に、ジンについての一般的なお話をさせてください。

「ジン」というお酒は、一般的に、元となるベーススピリッツ(蒸留アルコール)に、ジンに必須の素材である「ジュニパーベリー」や他のボタニカル(スパイス、ハーブ、フルーツなど)で風味付けがされた蒸留酒のことを指します。つまりジンの中心となる素材はジュニパーベリー(以下:ジュニパー)ということですね。

しかし、そんな中心の素材であるにも関わらず、ジンが製造される地域で育ったジュニパーをもとにつくられているジンは非常に少なく、他の地域から輸送していることがほとんどです。

ジュニパーの有名な産地として、北マケドニアやセルビアといった東欧の地域、イタリアのトスカーナ地方などが例として挙げられます。他にも北アメリカ大陸など、その分布地域は北半球に集中しています。

では、プロセラジンに話を戻します。

プロセラジンには「JUNIPERUS PROCERA=ジュニペラス・プロセラ」という種のジュニパーが使用されています。「プロセラ」はラテン語で「背が高い」という意味を持ち、ケニアの高地に自生する非常に背の高い樹に成る種です。

そして驚くことに、このジュニペラス・プロセラだけが、世界で唯一の南半球にまで到達した種であるということですから驚きですね!

鹿山さんが仰るには、その味わいはタンニンの性質である苦味が強く、実の部分が大きくジューシーで豊かな風味を持つということです。試飲会ではフレッシュ・ジュニパーが全員に振舞われましたが、まさに鹿山さんが言われる通りの味わいで、とても美味しいものでした!

赤道直下という地理性もあり、ジュニパーが生育しやすい高地においても、一年中夏の気候下で育つので、太陽を沢山浴びることから風味が豊かになります。

そんなジュニペラス・プロセラを使用した世界で初めてのジンということで、プロセラジンは、前例のない未開の境地に挑戦したジンと言えるでしょう!

ジンにおける3つの革命

ジュニパーの種類についてのみならず、プロセラジンには3つの「革命」的な点があります。どれも前例がない点ばかりで、ジンにおける新しい哲学として樹立するのではないでしょうか。

①フレッシュ・ジュニパーを使用

世界でつくられている多くのジンにおいて、ジュニパーは乾燥(ドライ)させたものが使用されています。

それに対して、プロセラジンに使用されているジュニパーは、ドライではないフレッシュなものが使用されています。ジンに使用されるジュニパーが生育している地域は、蒸留所から一時間という距離にあり、その距離的な近さがフレッシュのままジンづくりに使用することを可能にしています。

フレッシュ・ジュニパーはドライのものとは味わいが違い、ジュニパー本来の爽やかな風味・清涼感・まろやかさなどを感じることができ、他のジンにはないジュニパー感があります。

②テロワール・ジン

ワインが好きな方には馴染みのある言葉である「テロワール」。風土やその土地独自の個性といった意味を持ちます。ワインであれば、固有のブドウ畑からつくられたワインは固有の味を持つという考え方ですね。

ジンの世界では、各地域ごとに特性のあるベーススピリッツやボタニカルを使ったクラフトジンは多数ありますが、ジンの素材の中心であるはずのジュニパーに関しては、あまり地域性に焦点を当てられることはありません。

プロセラジンは、ジュニペラス・プロセラを使用した世界初のジンということもあり、ジュニパーの種や地域性という哲学が浸透する第一歩となるのではないでしょうか!

③ボタニカルを煮込んで蒸留しない

蒸留士のアランさんはワイン醸造の職人であり、自ら蒸留器を組み立てたエンジニアでもあり、さらには料理人でもあるという経歴を持つ方です。彼はケニアでも有数のレストランの料理人であり、卓越した味覚と嗅覚を持っています。

そんなアランさんが選んだジンの製造方法は「ボタニカルを煮込まない」という蒸留方法です。

ジンの一般的な製造方法として、蒸留アルコールにボタニカルを加えて加熱して蒸留するという工程がありますが、その前段階として、ボタニカルをアルコールに浸して風味を抽出する「浸漬法」という方法があります。

ボタニカルをアルコールに浸漬させたまま加熱して、さらに風味を抽出することが一般的ですが、加熱によってボタニカルからより一層の風味が引き出される半面、加熱から生じる酸化によるネガティブな苦味が抽出されることもあるとされます。

それに対してプロセラジンは、ボタニカルを40度のお湯に漬けこみ、一晩ゆっくりと時間をかけてその風味を抽出します。その後、蒸留前にボタニカルを取り出して風味が溶け込んだ液体を蒸留してゆきます。

フレッシュ・ジュニパーを使用していることにより、浸漬だけで十分な風味の抽出を可能にしており、ジュニパー本来の豊かな味わいだけを残すことができます。

フレッシュ・ジュニパーであるからこその製法という訳ですね!

ボタニカル

そしてプロセラジンを特徴付けているのは、ジュニパーベリー以外のボタニカルもアフリカ大陸産であるということです。ケニア産のものはもちろん、他の国の農業ファームと提携したり、アフリカという地域の特性が最大限に活かされています。

ソマリアのハチミツも特徴的ですが、他のボタニカルに関しては試飲会でも味見をさせて頂きました。ガイさん曰く、ボタニカルの風味は何層にも折り重なっていて、下記の順番に感じられるとのことです。

  1. オレンジピール(ケニア)

ジンに使用される頻度もかなり多いオレンジピール。しかしその殆どはドライなものです。プロセラジンに使われているのはフレッシュなものであり、その香り高さが口に含んだ瞬間に感じられます。

  1. スワヒリ・ライム (ケニア)

ライムもジンのボタニカルとしてはポピュラーなものです。ケニア現地のスワヒリ・ライムはその心地よい酸味が素晴らしいです。

  1. グリーンティー(ケニア) 

日本の緑茶とケニアの紅茶の中間の様な風味を持つケニアのグリーンティー。旨味も感じられ、その風味がジンに深みを与えています。

  1. コリアンダー・シード(モロッコ)

コリアンダーは、日本でもパクチーやシャンツァイという別名で知られるハーブです。種を乾燥させたコリアンダーシードは、ジンのボタニカルとしては最も使用される頻度が高いものです。世界最高峰のクオリティーを誇るモロッコ産のコリアンダーシードが使用されています。

  1. ピンクペッパー(マダガスカル)

ペッパーと名が付いているものの、胡椒のような辛みはなくすっきりとした風味を持っています。こちらも世界的にクオリティーの高い品種が使用されています。

  1. メース(タンザニア) 

メースは採られるナツメグの実の外皮であり、貴重なスパイスとして知られています。ケニアの隣の国・タンザニア産で、50年もの間ナツメグの農場で従事しているプロフェッショナルのシオさんによって育てられています。

  1. カルダモン(タンザニア)

「スパイスの女王」とも呼ばれるカルダモン。高貴なスパイスとして知られており、スパイスの中でも高価な値で取引がされています。こちらもクオリティーの高いタンザニア産です。

  1. セリム・ペッパー(ナイジェリア)

ウッディーでスモーキーな力強い風味を持つスパイスです。スモーキーさが特に強く、ガイさんいわく、BBQの様な香りを持つとのことです。その独特の風味は味わったことが無いようなものであり、プロセラジンの風味に個性を与えています。

  1. オリス・ルート(モロッコ) 

アヤメ科の植物の根。スパイスやハーブというよりは、香水にも使われるような非常に香り高い素材です。プロセラジンには様々な風味のボタニカルが使用されていますが、オリスルートはそれらのバランスを取る役割を担っています。

ボトル

そして目を引くのがボトルのデザインですよね。まるで工芸品のような美しさを持っています。現地のガラス職人達によって一本一本が手吹きで形作られており、大量生産のボトルでは表現できないような温かみのある造形になっています。1日100個しかできないとのことで、非常に贅沢さを感じられますね。

そして、ボトル自体が芸術品ということもあり、通常のお酒のボトルに貼られているような「ラベル」がないという点も特徴的です。あるのは「青い点=ブルー・ドット」の印だけで、他にもグリーン・ドットやレッド・ドットという名前のジンの種類があり、そのドットの色でジンの銘柄を区別しています。

ボトルネックに付いているベルトも個性的ですね。牛の皮で作られたレザー製で、ここにも工芸品のような趣があります。そしてボトルのキャップも類を見ないようなものです。ヤシの木を手彫りで造形したそのキャップもまた芸術的です。

プロセラジンの楽しみ方とボタニカル・ソルト

ガイさんがプロセラジンの飲み方について、様々な提案をしてくれました。

まずストレートで飲むと心地よい甘味を感じられ、口に含んだ瞬間に上質なジンだと実感できます。次に、氷を一かけ入れてみると味の変化に驚くことが出来ます。そしてトニックウォーターを注いで作るジントニックも、申し分なく上質な味です。

もちろん普通の飲み方でも十分に素晴らしいジンなのですが、他のジンとは一線を画す飲み方を試すことができます。

ボトル一本一本に「ボタニカル・ソルト」が付属されているのですが、それをジントニックに一振りすると複雑味が増し、感動的に美味しいジントニックが完成します。

タンザニアのインド海で取れた塩に、ジンに使用されているのと同じ配合のボタニカルを粉砕したものを混ぜることによって作られるボタニカル・ソルト。ぜひ皆さんにも体験していただきたいものです!

そしてガイさんのお気に入りはカクテルの「マティーニ」とのことですので、カクテル用に使っても最上級に美味しいジンですね。

ジュニパーベリーの木を植樹

最後に、プロセラジンの素晴らしい点として、再生可能な地球環境を作ることに貢献しているという点が挙げられます。

「ジンが1本購入されるごとにジュニパーベリーの苗を1本植樹する」という活動も行っていて、来年にはナイジェリアの5つの地域において、5種類のジュニパーを植える予定もあるそうです。

各地域において気候も標高も変化してくるので、それぞれのジュニパーが育った暁には、地域性を感じることのできる「テロワール」ジュニパーを楽しめる日が来ることでしょう。

また、ジュニペラス・プロセラの木はかつて鉛筆の素材だったこともあり、乱獲されて絶滅しかけたそうです。植樹することによってジュニパーの森を蘇らせ、未来の世代にも豊かな自然を受け継がせてゆくこととなります。

購入者1人1人の寄与によってその活動が支えられるので、生産者と購入者が共に地球環境を守ることに貢献できるという、あまりにも素晴らしい活動ではないでしょうか!

最後に

ケニア発のクラフトジン蒸留所から生まれた「プロセラジン」。まだまだ発展途上のアフリカ大陸で製造されたジンですが、ジュニパーベリーとジンの製法、デザインや哲学についても前例のないジンに仕上げられています。

世界的なコンペティションでの受賞歴もあり、現在では、自国のケニアのみならず、南アフリカ・アメリカ・イギリス・フランス・ドイツ・イタリア・香港・シンガポール・オーストラリアなど、世界で流通するジンとなっています。

アフリカの風土を感じられるジンとしてこれ以上のジンはありません。是非みなさんも体験してみてはいかがでしょうか。

12月から一般発売されますが、現在、クラウドファンディングにて先行予約受付中です。早割りなどの特典がありますので、気になった方はぜひ応援購入を!

クラウドファンディングのページは以下ページから。 ※受付は2022/11/23まで