ジンに使用される個性豊かなベーススピリッツ。原料いろいろ。

以前の記事ではジンに使用される「ベーススピリッツ」について概要を説明しました。

今回の記事ではより深く掘り下げ、ジンに使用されているベーススピッツの種類を、一般的なものから個性的なものまでご紹介していきます。

最も使用されている「グレーンスピリッツ」

ジンのベーススピリッツは農業由来ですが、一番メジャーに使われているカテゴリーがあります。それが「グレーン=穀物」から作られる「グレーンスピリッツ」です。このスピリッツは、風味がよりクリアでボタニカルの邪魔をしないという特徴があります。

グレーンスピリッツの中でも、アルコール度数をおよそ96%まで高めて風味をクリアにしたスピリッツを、ニュートラル・グレーン・スピリッツ(Neutral Grain Spirits(NGS))や、グレーン・ニュートラル・スピリッツ(Grain Neutral  Spirits(GNS))と呼びます。ジンの本場・ヨーロッパで製造されているジンは、このスピリッツを元としている銘柄も多いと言われています。

では、穀物と一口に言っても様々な種類の原料がありますので、穀物由来のベーススピリッツの種類を見ていきましょう。

小麦(ウィート)

selective focus photo of wreath

パンやパスタの原料としても大変重宝されている素材の小麦。ジンやウォッカのベーススピリッツの原料としても活躍しています。一口に小麦と言っても、季節による「冬小麦」「春小麦」、色による「白小麦」「赤小麦」、硬さによる「軟質小麦」「硬質小麦」など様々な分類があります。

軟質の赤冬小麦がジンのベーススピリッツに使われることが多く、そのクリーミーさと、かすかなバニラ香が特徴的です。ボタニカルの邪魔をしないクリアなスピリッツが出来上がりますので、ジン製造において最も多く使用されていると言われています。

大麦(バーレイ)

味噌や醤油などの調味料から麦焼酎まで、幅広く使用される大麦。

風味は軽やかでありつつ、ナッツの様なクリーミーな香りが特徴的です。ボタニカルの邪魔をしない程度の主張の強さなので、小麦についでジンのベーススピリッツに多く使われているとされています。

麦芽(モルト)

brown and white rice grains

一般的に麦芽を発芽させたものが、ビールやモルトウイスキーを作る際に不可欠な「モルト」となります。モルトが原料がベーススピリッツは、大麦よりもより甘さが強く風味も独特なものになります。

ジンの元祖とも言われているオランダ発祥のジュニパーベリーのお酒「ジュネヴァ」も、原料はモルトの銘柄が多いです。ジンにおいては「モルトジン」と名乗っている銘柄もあり、その個性的な味わいを好むファンも多いです。

とうもろこし(コーン)

brown and white beans on white ceramic plate

コーン由来のベーススピリッツは、世界のコーンの一大生産地・アメリカが発祥とされています。アメリカにおいてコーンが主原料のバーボンウイスキーが発展したことから見ても、お酒の原料として多く使用されるのも納得できますね。

甘い香りが特徴的なバーボンウイスキーからも分かるように、ジンに甘い風味を与えることができ、コーンがベースのジンも多くあります。

ライ麦

brown wheat in selective-focus photography

中央ヨーロッパから西欧、北欧、ロシアなどが主要な生産地のライ麦。北欧ではサワー感のあるライ麦パンが国民食として有名ですね。

穀物由来のベーススピリッツの中では個性的なものの1つで、その酸味とスパイシーさがジンに複雑味を与えます。個性的な風味をジンに与えたい作り手によってベーススピリッツとして選ばれています。

お米(ライス)

brown ceramic bowl with brown powder

海外で言われるニュートラル・グレーン・スピリッツの分類からは外れますが、穀物ベースのスピリッツとして外せないのがお米から作られる「ライススピリッツ」です。その甘味とマイルドさが特徴的で、「季の美」の京都蒸溜所がベースライススピリッツを選んだことから、日本のジンにも多く使用されるようになりました。

穀物以外も多数 個性的なベーススピリッツ

ジンのベーススピリッツは穀物由来が大半を占めていますが、その他の素材から作られるベーススピリッツも面白いものばかりです。ではそんな個性的な素材を見ていきましょう。

ぶどう(グレープ)

purple grapes lot

ワインの原料にもなるグレープ。フランスやスペイン、イタリアと言ったヨーロッパの地域、またはオーストラリアなどのワインの産地がある地域で、盛んにグレープベースのジンが使われます。その地域のジン蒸溜所がジンを作る場合以外にも、ワイナリーがジンを作ることもあれば、ブランデーやコニャック、ブドウの搾りカスから作られるグラッパの蒸溜所もジン製造に力を注いでいる所も増えてきました。

グレープベースのジンは、そのフローラルでフルーティーな香りが特徴的で、ジンラバーの間でもとても人気が高い種類ですね。

りんご(アップル)

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グレープベースと並んで人気の高いジンが、アップルベースのジンです。りんごの蒸留酒と言えば、フランス・ノルマンディー地方「カルヴァドス」が有名ですが、カルヴァドスのメーカーもジン製造を行ったりしています。また、リンゴから作る醸造酒「シードル」を製造する醸造所もアップルベースのジンを製造したりと、フルーツベースのジンはヨーロッパにおいて盛んに行われています。

アップルベースのジンは、その華やかな風味とサッパリとした酸味を併せ持ち、グレープと同様人気が高いですね。

じゃが芋(ポテト)

brown round fruit on brown wooden table

一部のウォッカがポテト由来であったり、北欧の蒸留酒である「アクアヴィット」なども含め、ポテトが原料となっている蒸留酒も存在します。近年では、アメリカでもジンのベーススピリッツとして注目を浴び初めて来ていると言われています。

ポテトは蒸留の段階で不純物が出てくるので、濁った様な不明瞭な味がしますが、アルコールの純度を上げることによって、厚みのあるリッチなフレーバーになるとされています。

ハチミツ(ハニー)

clear glass jar with brown liquid inside

お酒の原料にハチミツ?と思われる方もいると思いますが、世界最古のお酒はハチミツから作られる醸造酒「ミード」である、と言われるほど歴史があるものです。銘柄は少ないながらも、そんなミードをベースとして作られるジンも存在しています。

サトウキビ(ケーン)

brown bamboo sticks on brown wooden table

多くの砂糖の原料であるサトウキビ。日本では沖縄が主な産地、そしてカリブ海周辺の中南米でも盛んに栽培されています。サトウキビベースと言って真っ先に思いつくお酒が、ジンと共に4大スピリッツと言われる「ラム」ですね。

蒸留段階でアルコール度数を低めにして、あえて「ラムの様なジン」にする個性的なジンもありますが、その様なジンは少数と言えるでしょう。反対に、アルコール度数を高めて風味は消しつつもその甘さを残すことができるので、ベーススピリッツの原料としても多く使用されています。

リュウゼツラン(アガベ)

前項のラムと似ていますが、同じく4大スピリッツの一角「テキーラ」の原料がアガベです。テキーラやメスカルといったメキシコのスピリッツ蒸溜所がジンも製造することがありますが、まだまだ数は少ないようです。

風味はやはりテキーラの様になり、メキシコ産のジンの少数の銘柄は存在しますが、日本で見かけることはほぼありません。

ホエイ

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こちらもかなり珍しい部類のベーススピリッツ。ミルクからチーズを作る際に出る「ホエイ(乳清)」が原料とされるものもあります。よくプロテインに配合されているので、耳にしたことのある方も多いでしょう。牛のデザインのラベルが可愛いアイルランドのジン『バーザズ・リベンジ』などが代表的な銘柄です。

キヌア

brown and white pebbles on ground

南米アンデスが原産のキヌア。その低糖質でグルテンフリーな特徴から、国連も認定する「スーパーフード」とされています。ジンの他にも、キヌアを原料としたウイスキーやウォッカも存在しています。フランスのジン『フェア・ジュニパー・ジン』が代表的な銘柄です。

原材料だけじゃない! 完成品のお酒もベーススピリッツに

six assorted-brand bottle s

原材料から色々な醸造酒や蒸留酒が作られる訳ですが、ジンというお酒は本当に懐が深く、完成後の他のお酒さえもベーススピリッツに作り変えることができます。例えば醸造酒であるビールやワイン、日本酒も蒸留すればベーススピリッツになってしまいます。

醸造酒のみならず、既に蒸留がなされている蒸留酒さえも、さらなる蒸留でベーススピリッツに変身させることができます。その例として、日本における「焼酎ベース」のジンが挙げられます。焼酎はすでに蒸留酒なのですが、焼酎の酒蔵がジンを作る際に自社の焼酎を使用していたりと、「ジュニパーベリーで風味付けされた」以外の部分が自由であるジンならではの製法と言えるでしょう。

最後に

前回と今回の記事では、ジンのベーススピリッツについてご紹介してきました。ジンと言えばボタニカルが注目されることが多いですが、ベーススピリッツによる味わいの違いも楽しめるお酒です。

そんなことにも思いを馳せながらジンを飲めば、より一層ジンライフを楽しむこと間違いなしです!

引用

GIN DICTIONARY 洋書
The mysterious world of neutral grain spirit
Gins by base spirit
旭製粉株式会社 ┃ 小麦粉豆知識