ジン製造における蒸留器のタイプ別解説:蒸留のアートとサイエンス

ジンは「蒸留酒 = スピリッツ」の一種であり、「蒸留器」という装置で製造されています。蒸留器という言葉は耳にしたことはあるけれど、実際はどのような装置かということはご存じない方も多いのではないでしょうか。

一般的にジン製造に使用される蒸留器は、大きいカテゴリーに分けて2種類。装置自体の大きさも様々で、そこからさらに細分化された無数のタイプに枝分かれしていきます。

今回の記事では、蒸留という概念について。また、ジン製造の現場で使用されている蒸留器の特徴について解説しています。

そもそもジンとは

ジンとは?
ジンとは?

蒸留工程や蒸留器について説明する前に、そもそもジンとはどの様なお酒なのか、またその造り方を説明させてください。

大麦、ライ麦、またはブドウやリンゴなどといった、穀物や植物など農作物由来の素材をアルコール発酵させて醸造酒を作り、それらを蒸留することによって「ベーススピリッツ」が精製されます。 (おすすめ記事:いわゆるジンのベーススピリッツとは?)

そのベーススピリッツに、ジンにとって必須の素材である「ジュニパーベリー」や他のボタニカル(スパイス、ハーブ、フルーツなど)を加えて風味付けがされたものが「ジン」と呼ばれるお酒です。ボタニカルを加えてから再度蒸留することが一般的ですが、その工程を経ないジンも存在します。(おすすめ記事:ボタニカルとは?)

本当にざっくり言ってしまえば、ベーススピリッツにジュニパーベリーを加えればジンと呼ばれるお酒になります。

その様に製法に縛りが少ない点が、とても自由度が高く作り手の個性が出やすいお酒ですね。

では蒸留とはどんな工程?

ではジンのつくり方を踏まえた上で、スピリッツ製造における「蒸留」とはどのようなプロセスなのか解説していきます。あくまで一般的な製法をご紹介しますので、つくり手やメーカーによって様々なバリエーションがあるという点はご了承ください。

まず最初に、農作物由来の原料を糖化、そして酵母を加えて発酵させ、アルコール濃度の低い「もろみ = ウォッシュ」をつくります。ここでもろみを搾ると、ワインやビールといった「醸造酒」になるという訳ですね。もろみの段階ではアルコール度数はまだ低く10-20%程度です。

ここからが蒸留器の出番となります。熱変化によって物質の状態をコントロールするという化学的な知識に基づいて蒸留は行なわれています。

蒸留器の構造として、まず直火や蒸気による熱源が土台にあり、その上に、もろみを入れる「蒸留窯(ポット)」という鍋のような部分があります。

そこにもろみを投入して熱を加えていきます。水の沸点は100℃ですが、アルコール(エタノール)の沸点は78.5℃と水よりも低く、アルコールが先に蒸発して蒸気になります。つまり、沸点の差を利用して、アルコールと水を分離するという訳ですね。

蒸気になったアルコールが「ラインアーム」と呼ばれるパイプを伝って「冷却器 / 凝縮器(コンデンサー)」に送られ冷却されます。蒸気は冷えると液体に戻りますが、これがアルコールが濃縮された「蒸留液」と呼ばれるものです。

出来上がった蒸留液は「蒸留タンク(レシーバー)」に貯まっていきます。この時に、蒸留液の初めと終わりに含まれている有害物質やえぐ味成分を分けるために、途中でタンクを切り替える「カット」という工程があります。

カットの技術はとても奥が深く、それだけでも一記事になるくらい長くなるので、また別の機会にご説明させてください。

蒸留液のアルコール度数は蒸留器のタイプや規模によって違いがありますが、低いもので40%付近、高いもので96%まで上昇します。その蒸留液に水を加えて飲みやすい度数まで下げる「加水」を経て、スピリッツが完成します。

スピリッツは最終的に40-50%台に調整されるのが一般的ですが、焼酎は20%台に調整されたり、ウイスキーの場合、樽から加水せずそのまま60%以上でボトリングスする「カスクストレングス」というものがあったりと、蒸留酒の種類によって加水度合いが変わってきます。

ジン製造の場面で登場する蒸留器

さまざまな蒸留器

蒸留酒全般のお話をしてきましたが、ジン製造の現場ではどのような蒸留器が使用されるのでしょうか?

ジン製造に使われる蒸留器のタイプは大きく分けて2タイプ。そこから用途や目的によって細分化されていきますが、ざっくり分けて下記の4種類に焦点を当てて解説していきます。

・ベーススピリッツ製造のための「連続式蒸留機

・ベーススピリッツにボタニカルを加えて再蒸留するための「単式蒸留器

・連続式蒸留機と単式蒸留器の特徴をミックスした「ハイブリッド蒸留器

・単式蒸留器の一種で蒸留器内の気圧をコントロールできる「減圧蒸留器

細かく見ていくと、他にも「ツブロ式蒸留器」や「カブト釜式蒸留器」、個性的なものは世界中に沢山ありますが、その辺りはまたの機会にご紹介させてください。

単式蒸留器(ポットスチル)とは

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英語で「Pot Still (ポットスチル)」と言われる「単式蒸留器」について解説していきます。ジンの製造工程的には連続式蒸留機の方が工程的に先なのですが、蒸留器の中でも一番シンプルな構造で、蒸留という仕組みを突き詰めていくと単式蒸留器から説明した方が分かり易いかと思いましたので、順番を逆にさせていただきます。

単式蒸留器はとてもシンプルな構造で、このような蒸留器の装置は5000年前にはできていたとも言われていますとても。歴史の深いものであり、蒸留器の元祖と言える存在ですね。

世に広まったのは9世紀〜13世紀頃。中東や北アフリカにおいて、文化・科学・医療などの分野が大きく繁栄した「イスラム黄金時代」という時代があり、その時代に「蒸留器=アランビック」が発明され、それを契機に蒸留という概念が広がり始めました。

単式蒸留器の仕組み

単式蒸留器の仕組み

まず加熱する窯(ポット)があり、窯の中にもろみを投入して、ポットの下部から熱を加えもろみを熱します。もろみが熱されて蒸気となり、蒸気が通るラインアームを通って冷却器で液体に戻され、タンクに蒸留液が溜まる仕組みです。

一回の蒸留ではアルコール度数はあまり高くならず、40-60度くらいまで上昇します。出来上がった蒸留液を何回も蒸留することによって、さらにアルコール度数を上げることが可能となり、3回ほど繰り返すことによって最大90度程度まで上げられると言われています。

素材の風味を残したスピリッツが出来上がるので、モルトウイスキーやテキーラなど、素材がダイレクトに酒質に反映されるお酒造りに使用されます。

ジン製造における単式蒸留器

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では次はジン製造における単式蒸留器の役目についてご説明していきます。

一般的なジンの製造工程は、「連続式蒸留機で高アルコール濃度でクリアなベーススピリッツを精製」→「単式蒸留器でボタニカルを漬け込んでの再蒸留」という流れになります。

無味無臭でクリアな酒質のベーススピリッツに、ジュニパーをはじめとするボタニカルを漬け込んで単式蒸留器で蒸留作業をするとジンが完成します。

ボタニカルの風味をアルコールに抽出するということが、ジンというお酒の最大の特徴であり、素材の風味を残す単式蒸留器が、ボタニカルの場面では必須となります。

次項で述べる連続式蒸留機によってベーススピリッツがつくられることが一般的ですが、現在では、ベーススピリッツも単式で製造して、ベースの素材からボタニカルの風味まで含めてジンの個性とするという銘柄も多くなってきました。

そんな個性の違いを楽しむのもジンを飲む醍醐味ですね。

連続式蒸留機(コラムスチル / カラムスチル)とは

連続式蒸留機とは、その名の通り、一度の蒸留で「連続的に」蒸留作業を行うことのできる蒸留機です。近代的で複雑な仕組みから「器」ではなく「機」と表記されることが多いようです。以降の説明に関してもとても複雑で分かりづらく、「小難しすぎる!」と言われる方も多いと思いますので、ざっと読み飛ばして頂いても大丈夫です。

連続式蒸留機は、その円柱のような形から「コラム(円柱)スチル」と呼ばれます。英語の発音的に「カラムスチル」とも呼ばれますね。

また、発祥の時代である1800年代にこのような装置の「特許 = パテント」が多く取られたことから、別名「パテント・スチル」とも呼ばれます。

1800年代のイギリスにおいて、蒸留士であり発明家でもあるAeneas Coffey(イーニアス・カフェ)が作ったものが元祖であるという説がありますが、それ以前にも連続式蒸留機のような装置で特許が取られていた例は数件あり、本当の意味での元祖ということではないようです。

彼はセールスマンでもあったので、1830年頃に蒸留器の特許を取得してスピリッツメーカーに猛烈に売り込みをかけます。そこで爆発的に売れたことから、イギリスで連続式蒸留機が広く普及したと言われています。

スピリッツに詳しい方ならピンとくるかもしれませんが、ニッカ「カフェモルト」「カフェジン」「カフェウォッカ」の原酒づくりに用いられている「カフェ・スチル」は、彼の名にちなんで作られた伝統的な蒸留機です。

このような装置の普及により、クリアなジンである「ロンドン・ドライ・ジン」が誕生し、ジンの歴史の一大転換点となりました。

連続式蒸留機の仕組み

Sydney Young – Sydney Young, Fractional distillation, Macmillan and co. (1903).

では、連続式蒸留機の構造について解説していきます。

一般的に円柱形の縦に長い塔が2本立っており、その塔は連続塔 = コラム / カラムという名称になります(以下 : カラム)。

2つのカラムはそれぞれ「もろみ塔」「精留塔」とよばれ、塔の中は棚段に仕切られていて、一つ一つの段の窓から中が覗けようになっています。

まず「もろみ塔」の上部からパイプを伝ってもろみが投入されます。それがどんどん下の段に落ちていき、塔の一番下の部分で熱した蒸気が送られるボイラーの部分に達すると、そこで加熱されて蒸気になります。

途中の棚段の一つ一つにバブルプレートという装置が敷かれていて、熱せられた蒸気は上の棚へ、液体のもろみは下の段に落ちる仕組みになっています。

棚段は上に行くほど気温が低くなるので、一度上の段に上がった蒸気も一部が液体に戻って下の段に戻ったりと、常に蒸気と液体に上下の還流が起きます。

液体→蒸気→液体→蒸気というように棚段を行ったり来たりして、それが繰り返される度にアルコールの純度が上がって行くという仕組みですね。

アルコールの純度が上がった蒸気が塔の上の部分に達すると、ラインアームを伝って隣りの「精留塔」下の部分に送られ再度加熱されます。それからはもろみ塔と同じように、アルコールの濃度が上がりつつ、どんどん精留塔の上に蒸留液が上っていくという仕組みです。

もろみ塔では素材の発酵したもろみを蒸留。精留塔ではすでに蒸留されて一度蒸気になったアルコールを、さらに蒸留して純度を上げるという、別名の役割を持つ二つの塔によって成っているという訳ですね。

アルコール純度が上がった蒸気はラインアームを通って最終的に冷却器に送られ、そこで冷却されて液体に戻ると純度の高いアルコールが出来上がるというわけですね。

ジン製造においての連続式蒸留機

連続式蒸留機の一番の強みは、高いアルコール濃度のスピリッツを一度の蒸留で精製できるので、ジンの「ベーススピリッツ」づくりに用いられます。

1回の蒸留で、アルコール度数は90度から最高で96度付近まで到達します。そうやってできたスピリッツは雑味が無いクリアな風味をもっており、いわゆる「ニュートラル・スピリッツ」と呼ばれるものになります。

特にジンの本場であるヨーロッパにおいては、多くのジンが連続式蒸留機で製造されたニュートラルスピリッツを元にジンがつくられています。

塔の形を持ち、その塔の高さが高ければ高いほどクリアなスピリッツが出来上がるので、天井が高い建物や吹き抜けがある場所に設置が必要となってきます。数フロアをぶち抜くほどに背の高い蒸留器も存在するので、その規模の大きさには驚きですね。

そのこともあり、設置の段階で蒸留施設の規模自体を大きめに設計しなければならず、小さな蒸留所ではなかなか設置が難しい装置であるということがあるようです。

そして、高濃度のスピリッツを製造するということは、製造ライセンスの問題や消防法などの法律に関してクリアしなければいけないハードルが上がってきますので、製造の難易度が高くなってくるという点も注意です。

そこで、ニュートラルスピリッツを専門に製造するメーカーというものが存在します。

イギリスを始めとするヨーロッパでは、2010年頃から始まったジンブーム以降、規模の小さい「マイクロ蒸留所」が各地から無数に現れました。それらのメーカーは、自社でベーススピリッツを製造せずに、ニュートラルスピリッツメーカーからベーススピリッツを買い付けることがほとんどだと言われています。

そしてそのようなマイクロ蒸留所のみならず、超大手のジンメーカーでさえもベーススピリッツはスピリッツメーカーから買い付けるということですので、分業体制がしっかりしているということの現れですね。

ハイブリッド蒸留機とは

「混合」や「複合」という意味を持つ「ハイブリッド」という言葉が付いた蒸留機。その名の通り、単式蒸留器と連続式蒸留機が複合している装置です。

装置の形状としては、単式蒸留器の真上にカラムが付いているタイプと、単式蒸留器の横にカラムが並んでいて、ラインアームを伝わって蒸気を連続塔に送れる仕組みのものがあります。

単式のポットで熱せられた蒸気が連続塔に送られ、そこで再加熱されることによって、さらに純度の高いアルコールを精製することが可能となります。また、カラムは通さずに単式のみを使用することもできますので、ジンの味わいの狙いによって様々な蒸留方法を選ぶことができます。

ジン製造においてのハイブリッド蒸留機

かつてのハイブリッド蒸留機のカラムは、連続式蒸留機単体のものよりも棚の段数が少ないものが多く、高純度でクリアなスピリッツは作ることは出来ないと言われていました。

しかし、ハイブリッド蒸留機は年々進化しており、現在ではカラムの段数もかなり多いものが登場してきていて、ジンのベーススピリッツからクリアなウォッカまで、様々な蒸留酒に対応できるようになってきました。

特にアメリカやカナダなどの規模の大きい蒸留所では、高い塔を持つハイブリッド蒸留機をを使用して、ベーススピリッツも自社でつくるというメーカーが見受けられます。

国内でも『THE HERBALIST YASO GIN』などは、次項でご紹介する減圧蒸留器と巨大なハイブリッド蒸留機を併用して、クリアなベーススピリッツを製造することに成功しています。

しかしながら、小規模で小型のハイブリッド蒸留器を使用する蒸留所では、ハイブリッド蒸留機でベーススピリッツを製造せずに、もっぱらボタニカルを加えて再蒸留をする際に使用されています。

単式でボタニカルの風味を抽出した後に、さらに連続塔を通してよりクリアな仕上がりのジンをつくることができるので、ドライなジンを目指しているつくり手に取ってはうってつけですね。

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減圧蒸留器

減圧式蒸留器

さて、もう1つ珍しいタイプの蒸留機をご紹介させてください。それが「減圧蒸留器」という装置です。単式蒸留には「常圧蒸留」と「減圧蒸留」という2種類の蒸留方法があり、後者の方法を用いることできるのが減圧蒸留器ということになります。

常圧蒸留とは、蒸留器内の気圧を外気と変えずに蒸留する方法で、ジンのボタニカル蒸留の工程のほとんどはこの方法で行われます。それに対して減圧蒸留は、蒸留器内の空気を抜いて気圧を下げ液体の沸点を下げることにより、低い温度で蒸留ができるという化学的な方法です。

海外のジンでも減圧蒸留の意味である「バキューム・ディスティレーション」や「コールド・ディスティレーション」という表記がされている銘柄を見かけますが、それほど主流ではありません。

それに対して、日本では減圧蒸留器を製造している蒸留器メーカーがあり、減圧蒸留器というが割と普及しています。それはなぜかと言うと、「焼酎」造りの現場で、伝統的に減圧蒸留器が使用されてきたからです。

焼酎は大きく分けて2タイプに分けることが出来ます。連続式蒸留機を使用して味をクリアに仕上げる「甲類焼酎」。そして単式蒸留器を使用してもろみの個性を残すよりクラフト感が強い「乙類焼酎」とに分けられます。

その乙類の中でも減圧蒸留によって造られる焼酎が数多く存在しており、常圧蒸留よりも低温で加熱するということにより、素材の特徴を残しながらもクリアな酒質に仕上げられるという特徴があります。

減圧蒸留器は常圧と減圧を切り替えて両方使えるようになっていて、ジンづくりにおいては「このボタニカルは常圧、こっちは減圧」という風に、香味抽出の狙いなどによって使い分けられます。

例えば、通常のボタニカルは常圧で。熱に弱い花びらなどのボタニカルからは、優しく繊細な風味を抽出する為に、温度が低い減圧蒸留を用いたりなど、つくりての哲学が反映されるという訳ですね!

最後に

ジン製造に用いられる蒸留器の解説、いかがでしたでしょうか。

ジンは、ベーススピリッツ x ボタニカル x 加水の水 x 蒸留器 x 蒸留方法 など、様々な要素の掛け算でできており、つくり手によって個性は無限大です。

皆様の住んでいる地域にもジンをつくっている蒸留所があり、一般見学などを行っている所があるかもしれません。もしご興味があれば、ぜひその様な場所に訪れてみて間近で蒸留器を眺めてみるのも楽しく、ジンがより一層好きになるかもしれません!

参考書籍

ジン大全
ジンのすべて
Gin: The Art and Craft of the Artisan Revival
The World Atlas of Gin
Gin the Manual

参考リンク

Wikipedia : 単式蒸留器
Liquor Page: 単式蒸留と連続式蒸留の違いとは?初心者向けに簡単解説!
琉球泡盛:単式蒸留の特徴
SHOCHU/NEXT : 蒸留器の歴史を知る!|起源はメソポタミア
shochu-next : 蒸留器の歴史を知る!|昔はどんな蒸留器を使ってた?
BARTENDER : Explainer: the differences between pot stills and columniki
Desitiller : COLUMN STILL DISTILLATION: HOW A COLUMN STILL WORKS
Whisky Science : History of the column still
Nikka whisky : Coffey malt
REVIVAL STILL WORKS : HYBRID STILLS
iichiko style : 「常圧蒸留」と「減圧蒸留」の違いは? 焼酎の味や香りはどう変わる?