ジンの定義 第三の分類 『London Dry Gin(ロンドンドライジン』

前回、前々回の記事においてはEU法における『ジン』『蒸留ジン』の分類をご紹介しました。

今回の記事では、3つめの分類である London (Dry) Gin 『ロンドン(ドライ)ジン』に焦点を当てていきます。

第三の分類 London (Dry) Gin 『ロンドン(ドライ)ジン』

ジンのボトルによく ”LONDON DRY GIN” という言葉が書かれていることを見かけると思いますが、実際になぜそう呼ばれるのか?ということを厳密に知る機会は少ないですよね。

単純に考えて「ロンドンで作られたドライジンだから?」と考えるのが自然ですが、規定されている意味は違っているんです。

この『ロンドンジン』という分類も、第一の分類である『ジン』という大きな括りの中に含まれているより細分化した分類です。

さらに『蒸留ジン』という分類の中にも含まれており、ロンドンジンは蒸留ジンの中でも製法がとても厳密に規定されている種類のジンということになります。ではその詳細な内容を見ていきましょう。

(硬い文章で詳細な定義が書いてありますので、おおよそを知りたいという方は「まとめ」の部分まで飛ばしてお読みください。)

EU法における London (Dry) Gin 『ロンドン(ドライ)ジン』

(a)London gin is distilled gin which meets the following requirements:

ロンドンジンは下記の条件を満たした蒸留ジンのことを指す。

(i)it is produced exclusively from ethyl alcohol of agricultural origin, with a maximum methanol content of 5 grams per hectolitre of 100 % vol. alcohol, the flavour of which is imparted exclusively through the distillation of ethyl alcohol of agricultural origin in the presence of all the natural plant materials used;

農産物由来のエタノールのみを使用して製造されており、100%のアルコール換算で、1 ヘクトリットル(100 Rリットル)あたり5グラム以下のメタノールの含有量である必要がある。風味付けは、天然植物材料を使い農産物由来のエタノールを蒸留してなされる。→伝統的な蒸留器を使用という文言が無くなっている

(ii)the resulting distillate contains at least 70 % alcohol by vol.;

蒸留後の蒸留液は70%以上のアルコールでなければならない。

(iii)any further ethyl alcohol of agricultural origin that is added shall comply with the requirements laid down in Article 5 but with a maximum methanol content of 5 grams per hectolitre of 100 % vol. alcohol;

「*記事 5」の内容に沿った農産物由来のエタノールは添加可能であるが、100%のアルコール換算で、1 ヘクトリットル(100 リットル)あたり5グラム以下のメタノールの含有量である必要がある。(「*記事 5」につきましては、スピリッツにおける農産物由来のエタノールの定義を詳細に示した内容ですので割愛させて頂きますが、記事の最後に英文を引用しますので、気になる方はご覧ください。)

(iv)it is not coloured;

着色はされない。

(v)it is not sweetened in excess of 0,1 grams of sweetening products per litre of the final product, expressed as invert sugar;

完成後のジンに1リットルあたり0.1グラム以下の(転化糖と表現される)砂糖を添加しない。

(vi)it does not contain any other ingredients than the ingredients referred to in points (i), (iii) and (v), and water.

(i)→農産物由来のエタノール(ベーススピリッツと天然植物材料(ボタニカル)、 (iii)→規定量以下の添加エタノール、(v)規定量以下の砂糖、水以外は含んではならない。

(b)The minimum alcoholic strength by volume of London gin shall be 37,5 %.

ジンのアルコール度数は37.5%以上である必要がある。

(c)The term ‘London gin’ may be supplemented by or incorporate the term ‘dry’.

ロンドンジン’ は ‘ドライ’ という言葉で補完される。

まとめ

製法と原材料がとても厳しく規定されている『ロンドンジン』。『蒸留ジン』というより大きな分類に含まれている細分化された分類ですが、下記の厳しい基準を満たしているということになります。

  • 人体に有害であるとされるメタノールを最大限取り除いたベーススピリッツを使わなければならない。
  • 風味付けは蒸留を通してされなければならない。つまり、蒸留前に素材(ボタニカル)をアルコールに漬け込んでその後に蒸留して風味付けをすることは可能ですが、蒸留後の蒸留液にボタニカルを漬け込んで風味付けをすることはできないということですね。
  • 加水前の蒸留液が70%を超えていなければならない。ボタニカルを加えて蒸留された蒸留液は、その後に加水をしてアルコール度数を40%付近まで調整するのが一般的です。加水前の蒸留液を70%まで上げるということは、かなりクリアな味に仕上がるということですね。
  • ロンドンジンは甘味が少なくドライであることが前提なので、1リットルあたり0.1グラム以下と言ったごくごく少量の砂糖しか添加できない。砂糖を添加した甘い味付けの ”オールドトムジン” というジンの種類が存在しますが、これなどは蒸留ジンのカテゴリーに入りますが、ロンドンジンのカテゴリーに入れることはできません。
  • ジンに着色することは不可で無色透明である必要がある。例えば、蒸留後の蒸留液は無色透明ですが、その後にボタニカルを浸けて風味付けをする製法があります。この製法を使えばよりダイレクトにボタニカルの風味を付けることができますが、多少なりとも色が残ってしまいます。そのようなジンは蒸留ジンのカテゴリーに入れられますが、ロンドンジンのカテゴリーに入ることはできません。

またご参考として。

  • “ロンドンジン”と分類されているが、ロンドン以外の地域で作られていてもこの製法に則っていればロンドンジンを名乗ることができる。日本産でありながらロンドンドライジンと名乗るということも可能ですね。

19世紀中頃に「連続蒸留器」と呼ばれるクリアなスピリッツを精製できる蒸留器が発明され、それからジンのクオリティーが飛躍的に向上しました。それ以前は、雑味が多い為に砂糖を添加した甘い味のジンが主流でした。このようなクリアなジンが生み出されたのがロンドンだったという伝統にちなんで「ロンドンジン」と呼ばれています。

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いかがでしたでしょうか。

例えば、「タンカレー」「ビーフィーター」「ゴードン」「ボンベイサファイア」といった ”4大ジン” などに代表されるロンドンドライジンですが、こんなにも厳しい規定をクリアしているのは驚きですね。

最後に 

3回の記事にわたって『ジン』『蒸留ジン』『ロンドン(ドライ)ジン』の分類について解説してきました。

しかし、このEU法の規定は常に議論を呼ぶところではあります。海外の声を聞いても、

  • 「ジュニパーベリーの風味が主体って、どんな尺度で測るんだ?」
  • 「ジンはヨーロッパ発祥だけれど、EU以外の国で作られているジンはその基準を守っていなくてもジンと名乗っていいの?」
  • 「乳清タンパク質のホエイをベーススピリッツとしているジンなどもあるけど、農作物由来ではないのでは?」

などなど様々な議論があり、厳しいルールであるはずなのに ”あいまい” な部分も多くみられます。2010年代の世界的なジンブーム以降、自由な発想でジンを作る作り手が増えている中、EU法の基準自体が形骸化しているという見方もありますね。

繰り返しになりますが、この規定に即しているからといって味のクオリティーが高い低いという訳ではありません。

ジンの味はあくまで個々人の舌によって判断されるので、製法の違いを知りつつも、自分が美味しいと感じるジンが美味しいと思えることが重要ではないでしょうか!

出典:EU法におけるスピリッツの定義

Regulation (EC) No 110/2008 15 January 2008 発布当初
Regulation (EU) 2019/787 17 April 2019  改訂版