ジンというお酒は、ジュニパーベリーで風味付けをした蒸留酒のことを指しますが、その中でも製造方法によってジンのスタイルが分かれています。
今回の記事では、その中の1つである『コンパウンド・ジン』に焦点を当てて解説していきます。
“コンパウンド”=”合成” ボタニカルを漬け込んだだけのジン
メインの記事でご紹介していますが、EU法に定められているジンの定義において、’ジン’ という蒸留酒は大きく分けて『ジン』 『蒸留ジン』『ロンドン(ドライ)ジン』の3つの大きいカテゴリーに分類されています。それぞれにてついて詳しく知りたい方は、クリックして詳細説明のページをご覧ください。
『コンパウンド・ジン』はその中でも一番制限が緩い『ジン』 のカテゴリーに入るものです。『蒸留ジン』『ロンドン(ドライ)ジン』の分類が、ベースとなる蒸留アルコール(ベーススピリッツ)を ”再” 蒸留する工程が必須であることに対して、『ジン』 においては再蒸留が必ずしも必要ではありません。
その『ジン』に区分される『コンパウンド・ジン』は、ボタニカル(スパイス、ハーブ、フルーツなど風味付けの素材)をベーススピリッツに漬け込み、再蒸留せずにダイレクトな風味を抽出するという方法で作られたジンです。また、砂糖や香味成分などが添加されているジンも多く存在します。
コンパウンド・ジンの歴史
ジンの原型と言われる、オランダやベルギーが発祥とされるジュニパーベリー入りの飲料「ジュネヴァ」ですが、1600年代前半にオランダからイングランドに持ち込まれたとされています。
その後、1689年のイングランドにおいてオランダ総督ウィリアム3世がイングランド国王に迎えられ、彼の母国であるオランダのジュネヴァがイングランドでも人気を博すこととなります。イングランドにおいて次第に「ジュネヴァ」は「ジン」と呼ばれるようになりました。さらにウィリアム3世が蒸留酒の規制緩和をすることによって、後の1700年代前半にロンドンにジンブームが起こることになります。
その様なジンブームは「ジン・クレイズ(Gin Craze/狂気のジン時代」と呼ばれましたが、当時のイングランドの蒸留技術は未発達で、オランダほどのクオリティーの蒸留酒は製造できませんでした。粗悪なジンが市場に大量に出回り、安く入手できるアルコールにボタニカルを漬け込んだだけの合成酒的なお酒も多かったと言われます。
ジンに必須の素材であるジュニパーベリーを使用せずに、その風味に似たような香りを持ち人体に有害なテレピン油(松の樹脂から抽出したもの)を使ったジンや、角砂糖などの素材を混ぜただけの粗悪なジンを作る非合法の密造業者も多く存在していました。
このことからも分かる様に、当時のコンパウンドジンは非常に質が悪いものが多かったのも事実です。
時は進んで1920年-1933年のアメリカ、アルコール販売の生産 / 販売 / 輸送(密輸)を禁止する「禁酒法」が施行されました。ここでも多くの密造酒が製造され、カナダから密輸した粗悪なアルコールにテレピン油やボタニカルを漬け込むコンパウンドスタイルのジンが多く作られました。この時代に作られていたジンが ”浴槽(バスタブ)”に入れて混ぜて作られたことから「バスタブ・ジン」とも呼ばれました。
現在のコンパウンド・ジンは、かつての粗悪なジンと違って各メーカーが品質管理や使う素材をしっかり吟味したうえで、再蒸留をあえてしないという製造方法を選んだ質の高いものが多いです。味の特徴としては、漬け込んだボタニカルの風味がダイレクトに香るということがあります。
編集部が選ぶコンパウンド・ジン 3選
①エイブルフォース・バスタブ・ジン(Ableforth’s Bathtub Gin)
コンパウンドジンと聞いて真っ先に思いつくのがこちらのジンですね。英国の有名なお酒のリテイラー「マスターオブモルト」の関連会社が作るブランドです。その名前こそ禁酒法時代の粗悪なジンにあやかって付けられていますが、クオリティーは天と地ほどの差があり、あえて再蒸留の工程を経ないながらも厳格に製造されたクオリティーの高い逸品です。
もちろんジュニパーベリーで風味付けもされており、その他にもスパイスや柑橘が香って来て、それらのエッセンスが溶け込んだオイリーな仕上がりとなっています。
ボトルデザインも素晴らしく、ガラスのボトルの上にワックスを塗った紙を貼り、ボトルの上部を紐で縛ってあるというハンドメイドで作られた素晴らしいものです。
②カバランジン(Kavalan Gin)
カバランと言えば、ウイスキーファンの間では有名なプレミアムウイスキーを作る台湾の蒸留酒メーカー。国際的なコンペティションでの受賞も数多く、世界のトップ・ディスティラリーの1つとも言われています。
カバランはジンも製造しており、金柑、レッドグァバ、スターフルーツなどのフルーツを使用した、南国のフルーツ王国である台湾にしか作れない様なジンに仕上がっています。世界的なジンのコンペティション「World Gin Awards」のコンパウンド・ジン部門での入賞も果たしており、世界的に有名なアジア発のジンの1つです。
③9148 #0210 Fukinotou Compound Gin
日本にもコンパウンドジンは存在します。9148ジンは北海道の札幌市に位置する「紅櫻蒸留所」によって製造されており、ジャパニーズジンの中でも非常に人気の高い銘柄です。「9148」はSFの大家であるジョージ・オーウェルの代表的な作品『1984』をもじって名付けられています。
9148ジンには数々のフレーバーが存在しており、このレシピナンバー「#0210」はボタニカルにジュニパーベリーとふきのとうのみが使用されています。再蒸留の工程を経ていないことによりふきのとうの香りがダイレクトに香ってきて、また、アルコール度数が60度ということもあり、とてもインパクトの高いジンに仕上がっています。