伝統と革新が融合する ジャパニーズジン・クラフトジンのベーススピリッツいろいろ

皆さんは、お店でジンを飲みたいと思ったり、自宅で家飲みを楽しみたいと思った時に、どんな点に着目してジンを選ぶでしょうか?

お店でオススメされたり、ボトルデザインが好きだったり、地元のお酒だからなどなど。ポイントは色々あると思いますが、最終的に決め手になるのはやっぱり味ではないでしょうか。

ジンの味を決める要素は、大きく分けて2種類の素材から成り立っており、どちらもトータルとしてのジンの味を決定付ける重要なものです。

1つはジンの味を決定付ける「ボタニカル」。もう1つは土台となってジンの味を支える「ベーススピリッツ」というものですね。

今回の記事では、その重要な要素の1つである、「ベーススピリッツ」ついて解説していきます。

以前の記事にも、ベーススピリッツに関しての解説記事をご紹介しましたが、今回はそこからさらに踏み込んで、ジャパニーズクラフトジン特有のベーススピリッツに焦点を当てて解説します。

おすすめ記事:ベーススピリッツの記事

そもそもジンとは

クラフトジンとは?から引用

ベーススピリッツについて紹介する前に、そもそもジンとはどの様なお酒なのか、またその造り方を説明させてください。

大麦、ライ麦、またはブドウやリンゴなどといった、穀物や植物など農作物由来の素材をアルコール発酵させて醸造酒を作り、それらを蒸留することによって「ベーススピリッツ」が精製されます。 (おすすめ記事:いわゆるジンのベーススピリッツとは?)

そのベーススピリッツに、ジンにとって必須の素材である「ジュニパーベリー」や他のボタニカル(スパイス、ハーブ、フルーツなど)を加えて風味付けがされたものが「ジン」と呼ばれるお酒です。ボタニカルを加えてから再度蒸留することが一般的ですが、その工程を経ないジンも存在します。(おすすめ記事:ボタニカルとは?)

本当にざっくり言ってしまえば、ベーススピリッツにジュニパーベリーを加えればジンと呼ばれるお酒になります。

その様に製法に縛りが少ない点が、とても自由度が高く作り手の個性が出やすいお酒ですね。

ベーススピリッツの役割

white-and-red wicker basket on shelf

ジンの風味に彩りを与えるのはボタニカルですが、根底で味の風味を決めるのはベーススピリッツです。

海外のジン、とりわけジンの本場であるイギリスやヨーロッパでは、無味無臭のクリアなニュートラルスピリッツが使用されていることが多く、そのようなジンにおいては風味の主役と言えばボタニカルと言えるでしょう。

特にEU法により「蒸留ジン」は「96度以上のベーススピリッツを使用していること」と規定されているので、そのような流れになることは自然なことですね。

しかし他の地域、特に日本においては、伝統的に独自のお酒文化が大きく育っていることもあり、老舗の酒蔵がジンをつくることもしばしば。その酒蔵の酒造りの特徴を反映した独自性の高いベーススピリッツも多く存在します。

そのような酒造りの現場では、ボタニカルの風味 + ベーススピリッツの風味の相乗効果としてのユニークなジンが産み出されます。そのような訳でジャパニーズクラフトジンには、世界に類を見ないような独自の味わいのジンが多い訳ですね!

ジャパニーズクラフトジンのベーススピリッツいろいろ

では、日本ならではのベーススピリッツと、それらを用いてつくられているジンを数本ずつご紹介していきます。ジンの銘柄とメーカーのご紹介をしますが、日本の伝統的なお酒をつくる老舗の酒蔵も多くあり、お酒に詳しい方であれば「このメーカーもジンつくってるんだ~」と思って読んで頂けるかもしれません。

当然、日本国内でも、グレーン(麦、大麦、とうもろこしなどの穀物)、サトウキビなどを原料としたニュートラルスピリッツを使用しているメーカーも多いのですが、それはまたの機会にご紹介させてください。

焼酎

ジャパニーズジンに特徴的なベーススピリッツとして代表的なものが「焼酎」ではないでしょうか。

特に九州地方でつくられるジンに多く見受けられます。老舗の焼酎蔵が自社の焼酎を蒸留してベーススピリッツを製造し、そこにボタニカルで風味付けをするという製造の流れですね。

ジャパニーズクラフトジンが登場し始めた黎明期の2017年頃から、九州ではジンづくりが盛んでした。日本各地から続々とジンが生み出されている現在においても、もっとも多くの銘柄が生み出されている地域と言っても過言ではないでしょう。

焼酎造りのための蒸留器やタンクが酒造りの現場にすでに備わっていたということもあり、ジンづくりのスタートを切りやすかったということもあるでしょう。

焼酎の素材もメーカーによって様々で、米、麦、芋などの素材の風味を活かしたベーススピリッツが特徴的で、ニュートラルスピリッツ由来のジンとは一線を画す味に仕上がります。

例︰

芋焼酎

  • AKAYANE CRAFT GIN(佐多宗二商店)
  • 油津吟 (京屋酒造)
  • OSUZU GIN(尾鈴山蒸留所(黒木本店))
  • JIN7(大山甚七商店)
  • 424ジン(若潮酒造)

米焼酎

  • japanes GIN 和美人(マルス津貫蒸溜所(本坊酒造))
  • jinjinGin(高田酒造場)
  • KOMASA GIN(小正醸造)

麦焼酎

  • IKI CRAFT GIN KAGURA(壱岐の蔵酒造)
  • 釈云麦(じゃくうんばく)(西吉田酒造)
  • OMOYA GIN(重家酒造)
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日本酒

日本酒の製造プロセスの中でできる、お米を糖化・発酵させてできるもろみ。それを絞って出来た原酒に火入れをすることによって日本酒は出来上がります。

その日本酒を蒸留してジンのベーススピリッツをつくるメーカーも存在します。日本酒の段階ですでに美味しく頂けるのに、そこから他のお酒に用いるというのもとても贅沢ですよね。熟成古酒を用いるメーカーもあり、ユニークな味わいの銘柄も見受けられます。

老舗の日本酒蔵がジンをつくるというところも増えてきており、確かな技術力によって裏付けられているジンは、お米の甘みが反映された口当たりの優しいジンに仕上がります。

例︰

  • よきつき(令月)(梅ヶ枝酒造)
  • 和ジン(明利酒類)
  • AMRTA GIN(GEEKSTILL)
嶋崎屋岡村
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粕取り焼酎

日本酒を造る際に、もろみを絞った後に残る固形物が「酒粕」です。酒粕は粕汁や甘酒づくりにも使われ、栄養分や旨味がたっぷりで健康増進に効果があるとされてます。

その酒粕からつくられる焼酎が「粕取り焼酎」と呼ばれるお酒です。酒粕に水と酵母を加えて再発酵させる方法と、もみ殻を加えせいろ式蒸留器で蒸留する方法があり、突き詰めていくととても奥が深いお酒です。

その粕取り焼酎をベーススピリッツに用いられているジンも多くあり、焼酎とは違ったまた独特な風味が特徴的です。

余った酒粕は肥料として利用されたり廃棄されたりするので、素材を余すことなく循環させる日本の知恵から産まれた文化的な側面も感じさせます。世界的に見ても、地球規模で課題となっている循環型社会へのシフトの流れとフィットしていますね。

例︰

  • LAST EPISODE 0 -ELEGANT-(エシカル・スピリッツ / 千代むすび酒造)
  • ナイトトラベラー(山本酒造店)
  • No. 8 ジン(NUMBER EIGHT DISTILLERY)
  • COMMON GIN(虎ノ門蒸留所)
はせがわ酒店
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ちこり焼酎

ヨーロッパを原産とするキク科の野菜・ちこり。心地よい苦味が特徴的で、ここ最近では日本でもだんだんと見かけるようになりました。

岐阜県で盛んに栽培されていて、そのちこりを栽培した後に残るちこり芋を素材として造られる焼酎が「ちこり焼酎」です。ちこり芋は有効利用できる方法が少なく廃棄となるのが一般的ですので、焼酎造りに利用することで循環経済に寄与していると言えるでしょう。

ちこり焼酎をベースとしてつくられたジンは、フルーティーで甘い風味が特徴的です。

例︰

  • アルケミエ 犬啼(辰巳蒸留所)→ 粕取り焼酎とちこり焼酎
  • NAKATSU GIN(中津川蒸留所)→ 2023年からチコリスピリッツを使用
創業大正10年 京枝屋酒店
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泡盛

泡盛と言えば沖縄特産のお酒。焼酎と製造方法は似ていますが、原料がタイ米であったり、使用している麹の種類が違ったりと、仕上がった時の風味が独特で沖縄県民の生活に古来から根付いています。

そんな泡盛をベースとして作られているジンも存在します。老舗の泡盛メーカーが自社の泡盛をもとにつくっており、泡盛の風味とボタニカルが組み合わさって仕上げられたジンは、とてもユニークな風味になります。

例︰

  • まさひろ オキナワジン(まさひろ酒造)
  • JAPANESE CRAFT GIN ORI GIN( 瑞穂酒造)
  • ginger CRAFT GIN (石川酒造場)
酒類の総合専門店 フェリシティー
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ライススピリッツ

日本酒づくりのプロセスとして、もろみから日本酒と酒粕に分けられ、どちらからもジンづくりのベースになるということを解説しましたが、もろみを分離しない段階で蒸留することによってもベーススピリッツになります。

それが「ライススピリッツ」というものです。お米の甘さやフルーティーさを残しつつもスッキリした味わいのジンになり、日本の柑橘などと合わさることによって、フルーティーさが存在感を増します。

例︰

  • 季の美京都ドライジン(京都蒸溜所)
  • 橘花ジン(大和蒸溜所(油長酒造))
  • 南部美人クラフトジン(南部美人.)
  • Terroir A(本田商店)
米惣よしむら 楽天市場店
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ビール

これは日本に限らないのですが、ビールを蒸留することによって、ビールベースのスピリッツを造るメーカーもあります。

この傾向は特にコロナ禍のロックダウンから見受けられるようになりました。飲食店に飲みに行けなくなったことで大量のビールが賞味期限切れで廃棄されるようになり、そこから、ビールを蒸留してジンの素材に出来ないかという思いからつくるメーカーが出てきました。ビールメーカーとジン蒸留所がタッグを組んで一つのお酒をつくるということが素晴らしいですね!

コロナが収束した現在でも、ジンづくりに意欲的なビールメーカーがビールベースのジンをつくり続けています。ビールの風味をほのかに感じさせ、通常のジンとはまた違った麦の風味を感じさせる様な味が特徴的です。

例:

  • SAVE BEER SPIRITS クラフトジン(常陸野ネストビール(木内酒造本店))
  • REVIVE GIN(エシカル・スピリッツ)
  • KAGUA GIN (Far Yeast Brewing / 喜多屋)
  • Off Trail Azeotrope Beer Distilled Gin(Far Yeast Brewing)
  • クラフトジン LAZY MASTER(沼津蒸留所 / Repubrew)
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最後に

日本特有のジンベーススピリッツについての解説記事、いかがでしょうか。

日本ならではのベーススピリッツを使用したジンは、海外のお酒の品評会でも評価されるようになり、にわかに世界で注目を集め始めてきています

あまりジンを飲まない人でも、自分の好きな酒蔵やビールメーカーがつくっているジンがあるということで、ジンを好きになるきっかけとなることもあるでしょう。

そして、すでにジンを好きになっている方でも、ベーススピリッツによって好みの味のタイプがあるということを再確認できるツールにもなるかと思います。

是非、ベーススピリッツにも注目してみて、ジンライフを楽しんでください!!