スロージン(Sloe Gin)とは?その製法や歴史、魅力を徹底解説!!

「スロージン」というジンの仲間のお酒をご存じでしょうか?その鮮やかな赤い色合いから、発祥の地のイギリスではクリスマスのお祝いの飲み物などとして扱われていたり、とても広く愛されながら飲まれているお酒です。

現在でもイギリスやヨーロッパ諸国ではスロージンが盛んにつくられていて、王道のドライジンと共にレギュラーのレパートリーに加えているジンメーカーが非常に多くなってきています。

しかし日本では、通常のジンに比べるとスロージンの銘柄はそれ程多いわけではなく、一般的なジンほど身近にあるお酒ではないのではないでしょうか。あくまでもカクテルに使用されているリキュールとして、バーテンダーの方達やジン愛好家の話に上がるお酒で、スロージン自体を好んで飲むという方は少ないのではないでしょうか。

今回の記事では、そんなジンの仲間「スロージン」に焦点を当てて、その魅力を徹底解説していきます。

この記事を読んで、ちょっとでもスロージンに興味を持って頂けたら嬉しい限りです!!

そもそもジンとは

クラフトジンとは?から引用

スロージンを紹介する前に、そもそもジンとはどの様なお酒なのか、またその造り方を説明させてください。

大麦、ライ麦、またはブドウやリンゴなどといった、穀物や植物など農作物由来の素材をアルコール発酵させて醸造酒を作り、それらを蒸留することによって「ベーススピリッツ」が精製されます。 (おすすめ記事:いわゆるジンのベーススピリッツとは?)

そのベーススピリッツに、ジンにとって必須の素材である「ジュニパーベリー」や他のボタニカル(スパイス、ハーブ、フルーツなど)を加えて風味付けがされたものが「ジン」と呼ばれるお酒です。ボタニカルを加えてから再度蒸留することが一般的ですが、その工程を経ないジンも存在します。(おすすめ記事:ボタニカルとは?)

本当にざっくり言ってしまえば、ベーススピリッツにジュニパーベリーを加えればジンと呼ばれるお酒になります。

その様に製法に縛りが少ない点が、とても自由度が高く作り手の個性が出やすいお酒ですね。

では「スロー」ってなに?

一般的に英語で考えると「スロー=遅い」「スロー=投げる」という意味に捉えられそうですが実は全く違う意味で、「スロー=スローベリー」という、一般的に西洋すももとよばれる果実を指します。

スローベリーは別名を「スピノサスモモ」や「ブラックソーン」と呼ばれ、主に西アジアから北アフリカ、北ヨーロッパにかけて生育しています。

特にイギリスで多く生育しており、家と家の境界線となる「生け垣」として至るところに見受けられます。ブラックソーンの「ソーン」は「トゲ」という意味ですが、その固くトゲトゲした葉っぱが侵入者を防ぐ恰好のバリケードになるという訳ですね。

イギリスらしい逸話もあり、スローベリーの実がなる木はとても固く、その枝は魔法使いの杖として使われていたというお話もあります。

春先に白い花が咲き、秋になると黒に近い紫色の様な色の実を付け、秋~初冬にかけて収穫の時期となります。

スローベリーの実とスロージンの味は?

blackthorn, sloe, fruit

ベリーと聞くと甘酸っぱさを感じられるイメージですが、実際のところ、スローベリーは酸味の方が勝っているし、実が硬すぎるということもあるので、そのまま食べるのに適しているわけではありません。

しかし、砂糖などを加えて甘くすることによって驚くほど美味しく変身します。ジャムやゼリーの材料としてもイギリスでは重宝されています。

スイーツに使用されるだけではなく、クランベリーと合わせてサンドイッチ用のソースの材料として使われたり、煮込んで肉料理のソースにされたりもします。

そしてスローベリーと言えば何と言ってもスロージンです。スローベリーをジンに漬け込むことによってスロージンが造られますが、一般的にスロージンには砂糖やハチミツが加えられており、キリッとした味わいのジンとは違って甘さと鮮やかな色合いが特徴的です。

ジンとスロージンの違い

ジンとスロージンではいくつかの観点から見て違いがあります。その違いをご紹介していきます。しかしあくまで一般的な話で、スロージンと一言に言ってもメーカーによって製法に違いがありますので、全てのスロージンに当てはまる訳ではないということをご了承ください。

ジンとスロージンの違い

製法が違う

スロージンは、すでに完成しているジンにスローベリーを漬け込んで風味付けしたものを指します。この漬け込みの工程は「スティーピング」や「マセレーション」と呼ばれます。

(おすすめ記事:ボタニカルの「浸漬(スティーピング)」について)

漬け込みの際には実をつぶしたり、ごわごわした皮に穴を空けたりして、その風味をジンに染み込みやすくします。漬け込みの期間は、数週間から長いものになると数ヶ月の時間をかけて風味が抽出されます。その後に、液体を濾して果実や濁りを取り除くとスロージンが完成します。

似たようなお酒で、出来上がったジンに果物などを漬け込んでつくる「フレーバー・ジン」という種類もありますが、次項以降でご紹介する加糖度合いやアルコール度数などの違いによって、スロージンはジンには分類されません。

リキュールである

一般的にスロージンには砂糖やハチミツが加えられることもあり、ジンではなくリキュールに分類されます。

通常のジンにもごく少量の砂糖を加えることはできますが、スロージンはもともと酸っぱい実を漬けたジンを甘くするために加糖の割合が多くなります。一般的にスローベリーの重量の半分の量、もしくはアルコールの液体に対して2.5%以上の砂糖が加えられるとされ、そのことからもかなり甘味を加えるということが分かりますね。

ジンの本場・EUの規定では、ジンに分類されるにはある一定量までの加糖しか認められませんが、それを越えるとジンというカテゴリーのお酒には入れられないということになります。

アルコール度数が違う

リキュールであるということは、一般的にジンより度数が低いということが挙げられます。

EU法の規定でアルコール度数が37.5%以上でなければジンと名乗れないとされていますが、スロージンは15-30%のアルコール度数に抑えられているのでリキュールの分類となります。

しかし、ここ日本では酒税法の適用方法もEUの規定とは違っているので、ごくたまに、海外から輸入されているスロージンの中にも、「リキュール」ではなく「スピリッツ」と表示されているものがある様です。

色が違う

スローベリーで風味付けがされることによって、液体自体が鮮やかな赤や紫のような色合いになります。ソーダやトニックウォーターをミックスすると鮮やかなピンクになり、見た目にも華やかなドリンクとして、お祝いやカクテルのシーンで重宝されています。

スロージンの歴史

そんなスロージンですが歴史はとても長く、ドライジンが生まれる以前の17世紀のイギリスから歴史が始まったと言われています。

ではなぜスロージンはイギリスで生まれ、その後人気となったのか?

調べていくととても興味深い歴史的な背景がありました。

Enclosure Acts 1604-1914

スピノサスモモ

スローベリーの木はイギリスの農地改革の歴史と密接な繋がりがあります。

中世のイングランドでは、領主が広大な土地を持っていて、その中で各々の小作人が細長い畑(テナント)を使い、その領主の決まりに従って農作物を作るという「オープンフィールド」という農業制度が一般的でした。日本の歴史を照らし合わせると「荘園制度」のようなものにあたります。

その土地をどこからどこまで地主が所有しているかは特に公式に決められている訳ではありませんでしたが、1604年になると、イギリス政府が農地を管理する施策「Enclosure Acts =(私有地)囲い込み法 」を発令します。この囲い込みに関する法律は、細かいものを含めると1914年までに5200もの法案が制定されたとされます。

それにより、土地の所有には議会の承認が必要となり、領主や小作人は農地用の私有地を区画に割って行政に登録して、その土地の境界線が分かるように植物を使った生垣を植えるようになりました。

その生垣に利用されれたのがスローベリーの木だったということですね。スローベリーの木はとても繁殖力が強く、冬の気候にも耐えられ、何よりトゲトゲの固い葉っぱが侵入者を防ぐという効果もあります。

そんな人々の身近な存在であるスローベリーの実が、お菓子やお酒づくりに役立てられたということは当然の流れであり、ジンが普及する以前は、ワインやブランデーの香味付けとして重宝されていたとされています。

Gin Craze = 狂気のジン時代

ウィリアム・ホガース – ジン・レーン

イギリスでは1700年頃から “ジン・クレイズ=狂気のジン時代” と呼ばれるジン全盛の時代がありました。その頃にはイギリス国内に1500以上ものジン蒸留をしている施設があり、ジンは市民の間で一大ブームとなっていました。

それだけ多くのメーカーが乱立していたので、粗悪なジンもありクオリティーはピンキリでした。ジュニパーベリーを使用していないのにジンを名乗っているお酒や、ひどいものになると健康を害する様な素材で香り付けがされたものも存在している程でした。

その粗悪さをごまかす為に、砂糖やスローベリーを使って味付けをしたジンの様なお酒が大量に生まれたと言われています。ロンドンにおいて、自家製造による粗悪なスロージンも大量に出回り、貧乏人が飲むお酒のレッテルを貼られ社会悪とまでみなされていました。

Gin Craze以降の時代には、より純度の高い蒸留酒を造ることができる「連続式蒸留機」が広く普及して、それによって造られるキリッとした味わいの「ドライジン」が存在感を増してきます。しかし、それ以前の時代にはフルーツや砂糖などが加えられるジンが一般的で、むしろイギリスにおいてはジンの元祖と言えばこちらのタイプのことを指します。

そしてGin Crazeの中心だったロンドンの様な大都会のみならず、田舎の地方でもスロージンは大変ポピュラーだったと言われています。

スローベリーはそのまま食べるには酸っぱすぎるので、食べやすく加工保存するために砂糖と一緒にアルコールに漬け込まれていました。各家庭ごとにレシピがあるほどに人々の身近なお酒となったとされています。

Gin Craze後の1800年代には、スロージンのクオリティーも飛躍的に向上して、かつてのマーケティングの戦略として、狩猟のお供に飲むお酒 “スポーツマンズ・フェイバリット・リキュール” として広く広まったと言われています。

カクテルの材料としてのスロージン

アメリカでは1800年代後半から禁酒法が始まる1920年頃まで、カクテルの黄金時代と呼ばれる時代がありました。その頃に、ジンフィズのジンをスロージンに置き換えた「スロージン・フィズ」が発明され、スロージンがカクテルの材料として注目を浴びるようになります。

1920年には、Waldorf-Astoria = ウォルドルフ=アストリアというニューヨークの高級ホテルで、当時の喜劇王にちなんで名付けられた「チャーリー・チャップリン」が発明され、禁酒法の後の時代にもスロージンは人気を博していました。

ちなみに、アメリカはスローベリーの原産国ではないので、イギリスから伝わったスロージンの代わりに「ダムソン・プラム」や「ビーチ・プラム」、「ビュレーセス・プラム」などの西洋すももの仲間を使用したスロージンに近い味わいのリキュールが造られたりしています。

スロージンの衰退~ジンブームの再来

Plymouth Sloe Gin
プリマス スロージン

アメリカにおいてもイギリスにおいても、スロージンはカクテルの材料として注目されるようになりましたが、1960年頃になるとスロージンを使用したカクテルは衰退を迎えることとなります。

そして衰退を迎えると、実際のジンに果実を漬け込んだスローベリーは少なくなり、ジュニパーベリーも使われていない人工的に風味と甘味を加えた、スロージンとは呼べないようなスロージンが多く出回るようになります。

そんな不遇の時代を経て2000年代になると、イギリスの有名なジンメーカーである『プリマス』や『ヘイマンズ』が伝統的なレシピにのっとったスロージンをリリースするようになり、スロージンはその影響力を取り戻していきます。

2010年以降の世界的なジンブームにおいても、各メーカーがスロージンをメインのレパートリーに入れることも多く、世界的に見てもスロージンの銘柄はかなり多くなっています。

これを飲んだらイメージが変わるかも?! スロージン4選

では、最後に王道のジンメーカーが造るものからクラフト蒸留所が造るこだわりの銘柄まで、スロージンのオススメをご紹介させてください。

GORDON’S SLOE GIN : ゴードン スロージン

ジンの有名ブランド、ビーフィーター / タンカレー / ボンベイ・サファイアと並んで、いわゆる4大ジンと言われる『ゴードン・ジン』。

1796年にアレクサンダー・ゴードン氏によって蒸留所がオープンしてから現在に至るまで、トップを走り続けているジンの巨人的な存在です。

そんなゴードンがスロージンをリリースしたのは1906年。現在でもスロージンはレギュラーのラインアップの一角を占めています。イギリスや北ヨーロッパで採取されたスローベリーを素材として、オリジナルのゴードンジンのドライさと心地よい甘さを反映した、素晴らしいクオリティーのスロージンに仕上げられています。

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BATHTUB SLOE GIN : バスタブ スロージン

ジンのカテゴリーの一つ『コンパウンド・ジン』の代名詞的な存在である『バスタブ・ジン』。

コンパウンドジンは、ボタニカル(スパイス、ハーブ、フルーツなど風味付けの素材)をベーススピリッツに漬け込み、再蒸留せずにダイレクトな風味を抽出するという方法で作られたジンです。その名前は、かつてのアメリカの禁酒法の時代に、自宅の浴槽(バスタブ)にアルコールとボタニカルを漬け込んで造られたことにあやかって名付けられています。

(おすすめ記事:コンパウンド・ジン(Compound Gin)とは)

バスタブ・ジンはフレーバーも各種リリースしており、どれも素材本来のオイリーさを楽しめるお酒となっていますが、コンパウンド・ジンのタイプのスロージンはなかなか珍しく、他のスロージンと飲み比べしてみるのも楽しいのではないでしょうか。

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STIN SLOE GIN : スティン・スロージン

オーストリア、STYRIA(スティリア)でつくられるプレミアムなジン『スティン スティリアン・ジン』。共に自宅に蒸留器がある農家で生まれ育った2人の青年が出会い、身近な人達に振舞うジンづくりに没頭していく内に、その趣味が高じてついにジンメーカーを立ち上げる程となりました。

それぞれの自宅の蒸留器でジンを造り、それを持ち寄ってブレンドするというとてもユニークな製法が採られており、年間の製造量がとても少ないスモールバッチの貴重なジンとしてジンラバーの間でも高い人気を誇っている銘柄です。

オリジナルのスティン・ジンは、地元で採れるオーガニックのリンゴとエルダーフラワーをボタニカルに使用しており、華やかながらもキリッとした味わいのジンに仕上げられています。そのスティン・ジンをベースとして、スローベリーとスティリアの綺麗な湧き水が加えられたスロージンは、とてもフルーティーながらクリアに仕上げられています。

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MONKEY 47 SLOE GIN : モンキー47 スロージン

世界的にも有名でジンの歴史を変えたと言えるくらい影響力のある『モンキー47』

。一番好きなジンに挙げるジンラバーの方も多いと思いますが、オリジナルのモンキー47の他にも『モンキー47 スロージン』というフレーバーのバージョンも存在します。

ドイツのシュバルツバルト(黒い森)で造られるモンキー47ですが、同じく黒い森で収穫されたスローベリーが使用されます。霜が降り始める時期になるとスローベリーを手摘みで収穫して、完成済みのオリジナルモンキー47・ドライジンに4週間もの間漬け込んで風味を抽出します。

その後、数回のろ過を経た後に水を加えてアルコール度数を下げ、さらに漬け込んで6週間待つという、とてつもない労力と時間をかけてようやくスロージンが完成します。そこまでの労力をかけて練り上げられたスロージン。ぜひ一度味わってみてください!

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参考書籍

GIN : The Art and Craft of the Artisan Revival
CRAFT GIN MAKING

参考リンク

The Shipsmith blog : EXPLORING THE HISTORY OF SLOE GIN
BBC Good Food : A Guide to Sloe Gin
Liquor Root : What is Sloe Gin?
Front Porch Republic : Sloe the Winter’s March
Victoriana Nursery : Sloe Bush
UK Parliament : Enclosing the land
CHILLED : Drink in History : Sloe Gin Fizz
The Gin Guide : Gordon’s Sloe Gin
Master of Malt : Bathtub Gin – Sloe Gin
Monkey 47 : The Secret to Monkey 47 Schwarzwald Sloe Gin